今村夏子『こちらあみ子』

小説文学

こちらあみ子

  • 【BOOKS雨だれ】中学生におすすめ50冊!
  • 今村夏子デビュー作
  • 太宰治賞・三島由紀夫賞受賞
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なにげない違和感を描ききる

*もくじ*
こちらあみ子/ピクニック/チズさん
***

本作で第二十六回太宰治賞(「あたらしい娘」を改題)本書で第二十四回三島由紀夫賞受賞。

デビュー作にして。

というのは、読み終えてからおまけのように知ったことだが、その時にはもう私はこの作品がすごく好きになっていた。

十五歳で引っ越しをするまで、あみ子は田中家の長女として育てられた。父と母、それと不良の兄がひとり。

といってもこの兄だって、小学生の頃は妹思いのいい兄さんで、不良になった原因のひとつはたぶんあみ子にあるのだが、そんなこともあみ子はもちろん知らない。母が自宅で開いていた習字教室にやってくる「のり君」にあみ子は恋をする。

あみ子を受け止めきれない母と(あみ子はそんなことを気にしない)、

あみ子に苛立ちがつのるのり君と(あみ子はそんなことを考えもしない)、

あみ子に困る父と(あみ子はこれでも気を遣っている)。

あみ子のあたりまえのまっすぐさは、まわりの誰かを苦しめ、追い詰め、傷を残す。彼女にそんな意図は微塵もなく、だからこそ、そのまっすぐさは、時に切なくて、滑稽なのだ。

母のほくろが落ちると譲らず、公園にほくろが落ちていたとあみ子が言い張るシーンでは、思わず吹き出した。もちろん、その場にいた兄の感情は怒りである。

張本人と当事者と読み手のあいだに生まれるこの「ずれ」の感覚。春の小川の流れの如きおだやかさと軽やかな文体が、これほど心をざわつかせるのは、そこに描かれている日常が深い闇を含んでいると知っているから。今村夏子さんは、そのことに気づかせずにさらりと読ませて投げかける。この違和感は、きっと文章でしか味わえない世界で、そこに奇妙な心地よさがある。

「ピクニック」「チズさん」も同じだ。普通とそうじゃないものの境界線などなくて、奇妙さや違和感をすでに日常が内包していることに、気づいていない可能性だって、すぐとなりにあるかもしれないのだ。自分が基準にしている線引きだって、初めからずれているのかもしれないよね。

その線を持たないあみ子のまっさらが、私には眩しくもみえる。

みんながこんな風に生きられたら、たぶん誰も傷つかずにいられるのに。

ブックデータ

受賞歴など

BOOKS雨だれ第二十六回太宰治賞
BOOKS雨だれ第二十四回三島由紀夫賞受賞

国語入試問題に出典

今村夏子さんの『こちらあみ子』は2015年【茨城県】国語入試問題に出典されました。純文学が小説問題に採用されるのは珍しい気がします。

 

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