長谷川夕『僕は君を殺せない』~ノベル大賞受賞デビュー作

ミステリー

長谷川夕・僕は君を殺せない

  • 切ないライトミステリー
  • 2015年ノベル大賞受賞作『亡霊』を改題、改稿
  • 長谷川夕デビュー作

 淡々と語られる復讐劇

*もくじ*

僕は君を殺せない/Aさん/春の遺書

***

村はずれにある、いまは廃墟となった遊園地「風月村」。

十年以上前のこと。

若い母親と五歳の娘が、今は朽ちたその遊園地を訪れた。西洋風の館のお化け屋敷で事故は起こった。可動する壁に取り付けられたスポンジ製のナイフの一本はなぜか本物に挿げ替えられ、娘をかばった母親は犠牲になった。気づくと残されたはずの娘は、その場から消えていた。以来、遊園地の中を母親を探し、ふらふうらとさまよう小さい女の子の姿が目撃されるようになった。閉園された今も、誰もいない廃墟に小さな女の子の幽霊がさまよっているという。

一年前の夏、身代わりのバイトとして参加したミステリーツアーは、本物の惨劇へと変わった。連れていかれた蒼玉荘という屋敷で、ツアーの参加者が次々と非業の死を遂げる。てんで接点がないと思っていたツアーの参加者は、俺以外はみんな親戚みたいなもんだった。俺はそこから命からがら逃げ出してきた。

「おれ」と「ぼく」が交互に語り、バラバラに見えた点を少しずつ繋ぎながら物語は進む。

「ほらこっちだよ」と手前の角から呼びかけられるように、次の展開に誘われる。

物語はすとんと落ちるのに、最後まで誰の本音も心の闇も見えない。この復讐劇が完結されなければならないのと同じ必然性で、物語をラストに向かわせるため、感情は押し殺されたまま表に出てくることはない。

波立つ感情を読ませまいとするかのように、著者がわざと取りこぼして進むぼくの感情を私はひとつひとつ拾い集めるように読み進めた。「物語はここでおしまい」と言われても、私は物語を閉じることができずに、拾い集めた感情のかけらを並べて少し途方に暮れる。

(だから貸してもらった本を返した後で、もう一度読むために、また書店に走った)

最後まで、僕の本当の心の中はわからなかった。きっと彼もしらない。

君は、僕の、たくさんある嫌いなもののうちのひとつです。それなのにどうして、そんな風に笑うのでしょうか。君が笑うたび、僕は泣きたくなります。

感情は、とうの昔にあそこに置いてきてしまってたんだね、きっと。

ぞくりとする読後感を味わえる「Aさん」、切ない余韻を残す「春の遺書」、どの作品も、物語に惹きつけられページをめくる手を止められず、一気読み。単純に、文体も作品の雰囲気も好みだったりもする。

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『僕は君を殺せない』は2015年ノベル大賞受賞作『亡霊』を改題、改稿したもの。原題でもよかったような気もする。タイトルや帯に少々盛り感があるような。←最近多いよね

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