よしもとばなな『どんぐり姉妹』

よしもとばなな『どんぐり姉妹』
吉本ばななさんが描く姉妹の物語

小さな相談サイト

姉の名前はどん子。

妹の名前はぐり子。

ふたり合わせて『どんぐり姉妹』

突然の交通事故で大好きだった両親の笑顔を失い、辛い時もふたりで手を取り合って生きてきた。ふたりは小さな相談サイト「どんぐり姉妹」をはじめた。

私たちはどんぐり姉妹です。
このサイトの中にしか存在しない姉妹です。
なんていうことのないやりとりをして、気持ちが落ち着くことってありませんか?
私たちにいつでもメールをください。
おたがいにフォームの枠内の字数までというルールの中でですが、なんでも書いてください。
時間はかかっても、お返事をします。
どんぐり姉妹 (本文より)

「どんぐり姉妹」のサイトのトップに書かれているこの文章で、小説ははじまる。
まるで宮沢賢治の「どんぐりと山猫」で、一郎に届いたあのはがきのようだ。

どんぐり姉妹の文章は、ライターの仕事をしている姉・どんちゃんが書いているのだからきちんとした文章になっていて、山猫のように間違っていたり読みづらかったりはしないが、言葉の向こうにいるだれかのあったかさを感じるような文面。

わたしは、1ページ目をひらいたまま、気持ちははがきを受け取った一郎になり、あのどんぐりがごろごろざわざわ騒いでいる森の中にすっ飛んで、心は秋めいてしまう。

なにげない日常を綴り合うような会話の中に、誰かの心をとつぜんにぽっとのぞき込むような、ほっとあたたまる想い。

ネットの世界とリアルの世界。

見える世界と見えない世界。

生きているこの世界と死んだ人のいる世界。

表現できる世界と気持ちだけの世界。

それぞれ相反していて、個別に存在しているようで、みんな繋がっていて影響し合って呼応しあい日常に溶け込んでいる。

文のあいだに差し込まれている写真も、物語の味わいを深くしてくれています。

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出版社 : 新潮社
発売日 : 2013/7/27
文庫 : 172ページ
ISBN-13 : 978-4101359427

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