沼田真佑【影裏】

芥川賞 | 震災

震災で失われたものを懐かしみ、時にふりかえり、そして進んでゆく。第157回芥川賞受賞作。

おすすめポイント

◇中学生から読めます

◇高校生・大人におすすめ

◇震災をテーマにした文学作品

◇釣りが好きな人に

◇東北・岩手を舞台にした作品

◇第157回芥川賞受賞作

岩手の地で失われたものを偲ぶ

転勤で移り住むことになった東北の地・岩手。

水楢の倒木、下草から這い出すヤマカガシ、豊富な樹木に覆われ瑞々しく流れあふれる山川に、ブドウ虫の繭を垂らせば形のよい山魚が引っかかる。

知る人もいない私に、釣りを通じこの土地を教えてくれたのは同僚の日詰だった。

釣り上げた鮎から雌ばかりを選んで竹串に刺して炉で炙る。最後に会った時、酌み交わすことのなかった田酒の味を懐かしむことは永遠にない。

職場を離れ疎遠となった日詰が、震災後に消息を絶っていると知ったのは、六月のことだった…。

釣りを通じた和やかなひとときとはうらはらに、徐々に不穏な空気がつきまとっていく日詰という男。物語が進むにつれて少しづつ見えてくる元・同僚の姿は、主人公が知っている男とは少し違っていたかもしれない。しかし、自分の中にある記憶だけが確かなものであるともいえる。

失われたはずの人を偲ぶことで、私たちはいつでも彼らを身近に呼び寄せ、たしかに彼らがそこにいたことを感じることができる。

影裏【えいり】は禅の用語

影裏【えいり】というタイトルはどういう意味だろうか。

広辞苑をめくってみたが「影裏」という単語は載っていなかった。試しにみなさんもキーボードで「えいり」と打ってみて欲しい。「影裏」という単語は出てこないのではないだろうか。「陰裏」(かげうら)で日の当たらない場所、という意味はある。

「影裏」は著者が造り出した言葉なのだろうか。調べてみると、「影裏」という言葉は禅の用語であるらしい。

人の一生は短く儚いものだが、悟りを得た者の魂は滅びることなく、永久に存在するということのたとえだそうです。

受賞歴など

◇第157回芥川賞受賞作

◇第122回文學界新人賞受賞

著者・沼田真佑

1978年、北海道生まれ。現在は、岩手県盛岡市に在住。

本作で第122回文學界新人賞を受賞しデビュー。このデビュー作で第157回芥川賞を受賞しました。今後の作品が楽しみですね。

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