小川洋子『不時着する流星たち』~ひっそり息づく彼らのノスタルジー

小川洋子『不時着する流星たち』
  • 実在の人物や出来事をモチーフにした小説
  • 本好きにおすすめ小川洋子さんの短編集

*もくじ*

誘拐の女王/散歩同盟会長の手紙/カタツムリの結婚式/臨時実験補助員/測量/手違い/肉詰めピーマンとマットレス/若草クラブ/さあ、いい子だ、おいで/十三人きょうだい

はんぶんあらすじ&レビュー

偉大だといわれる人物は、それほど多くはない。しかしその偉大さは、だれがどのようにしてはかるのだろうか。だれかのために大きな偉業を成し遂げる者もいればー例えばエジソンの発明で私たちは遠く離れていても会話することが可能になったし、グーテンベルクの活版印刷機のおかげでこの本を手にすることもできるーまた一方で、だれのためでもなかったはずの出来事が、だれかの人生にごく些細なきっかけを与える者もいる。

或る者は、だれかの人生にそっと光を与え、或る者は影を落とす。

描かれているのは、かつてこの世界に確かにいた人たち、あるいは出来事。どこかに記録を残し、だれかの記憶に強烈に残り、現代までひっそりと息づいている(はずだ)。

描かれているのは、だれか人生とだれかの人生がほんの少し交錯するときに見せる、小さな化学変化がもたらすスパークのような瞬間。小川洋子さんは、そうした瞬間を見つけるのがうまい。その色を感じ、匂いを嗅ぎとり、彼らの些細な指先の変化までもをノスタルジックに描く。まるで1冊のコラージュのような短編集。

モチーフとなった人物・出来事

モチーフとなった人物や出来事は以下のとおりです。彼らのことを全く知らなくても、物語は味わい深く楽しめます。読み終わったあとで、もう少しだけ彼らのことが知りたくなるかもしれません。関連書籍やサイトを合わせてご紹介します。

誘拐の女王

ヘンリー・ダーガー:長編大作『非現実の王国で』を人知れず創作したアメリカの無名作家。

散歩同盟会長の手紙

ローベルト・ヴァルザー:てのひらサイズの散文集を執筆。

カタツムリの結婚式

パトリシア・ハイスミス:映画化もされた代表作『太陽がいっぱい』が知られていますが、カタツムリをモチーフにした「かたつむり観察者」も合わせて読んでみてはいかがですか。カタツムリを偏愛していた著者らしい視点で描かれた短編です。『11の物語』に収録されています。

臨時実験補助員

スタンレー・ミルグラムによる手紙のばらまき調査。

測量

グレン・グルード:カナダのピアニスト。

手違い

ヴィヴィアン・マイヤー:住み込みの乳母として写真を撮り続けたフォトグラファー。2013年彼女を描いたドキュメント映画が製作され、第87回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画にノミネートされるなど、注目を集めました。

肉詰めピーマンとマットレス

バルセロナオリンピック男子バレーボールアメリカ代表

若草クラブ

エリザベス・テイラー:イギリス出身、ハリウッドの黄金時代を代表する大女優のひとり。8回の結婚と離婚を繰り返す。

さあ、いい子だ、おいで

世界最長のホットドック

十三人きょうだい

牧野富太郎:植物学者。かつてはどこの学校図書館にも彼の植物図鑑がありました。彼の植物図鑑を見たことのない大人はいないかもしれない。

「臨時実験補助員」で描かれている、封筒をあちこちにばらまくという実験や、「手違い」での葬儀の際にお見送りに必要とされる幼児のレンタルだったり、異国らしい不思議さもまた興味深く、おもしろかったです。

一度に読んでしまうのはもったいない気がして、ひとつづつじっくりと味わいながら読ませてもらいました。

本をチェックする

単行本: 256ページ
出版社: KADOKAWA
ISBN-13: 978-4041050651
発売日: 2017/1/28
文庫本もありますが、断然単行本の装丁のほうが好き。

著者・小川洋子

1962年、岡山県生まれ。1988年に『揚羽蝶が壊れる時』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞受賞のほか、これまでにたくさんの文学賞を受賞。映像化されている作品も多いです。

この本がおもしろかったらこちらもおすすめです!

↓ 同じ作家の本を読みたいなら ↓
面白かったらこの本もおすすめ