『箱庭図書館』~乙一による乙一っぽい物語

乙一『箱庭図書館』
ふしぎな話が好きな人におすすめ乙一によるリメイク小説

本の紹介

この町の名前は文善寺(ぶんぜんじ)町。キャッチコピーは「物語を紡ぐ町」。この町には市立図書館があり、小説家がくらし、コンビニ強盗が出没し、異常殺人者もやってくる。クラスに溶け込めない高校生たちがいる。本が好きすぎてもう少しで凍死してしまいそうな女の子がいる。文善寺町にまつわる人たちの、ちょっとねじれている小さな6つの物語。

【もくじ】

小説家のつくり方/コンビニ日和!/青春絶縁体/ワンダーランド/王国の旗/ホワイト・ステップ

 小説家のつくり方

「わたしが小説を書くようになった経緯(いきさつ)について書いてみようとおもう。」きっかけは、学級日誌だった。語り口があまりにも自然すぎて、乙一さんのエッセイかと勘違いするほど。

コンビニ日和!

閉店間際のコンビニに強盗がやってくる。僕と島中さんは、強盗に穏便に帰ってもらおうとするのだが…。伊坂幸太郎さんの物語にありそうな展開で、笑えます。

 青春絶縁体

教室というコミュニティになじめない、イケてない僕。文芸部の小山雨季子先輩とだけは、打ち解けることができるのだった…。中田永一っぽいきゅんとせつない青春短編。

 ワンダーランド

ひろった鍵に合う鍵穴を探して町中を歩き回る男の子が、ある日、見つけてしまったものは…。乙一さんらしいストーリー。

 王国の旗

退屈な学校を抜け出し、目に付いた車のトランクに乗り込んだ女子高生。トランクで昼寝をしているうちに、どこかにたどり着き…。夜のあいだ、閉店したボーリング場に集まって自分たちの王国でくらす子どもたちのお話。恩田陸さんっぽい。

ホワイト・ステップ

町中が雪に包まれた朝。真っ白い雪面のなかに残されたひとつだけの足跡。まるで透明人間のように足跡だけしか見えないふたりのパラレルストーリー。乙一さんの「暗い所で待ち合わせ」っぽい。

全編を通して登場する、図書館勤務の潮音さんがいい味付けをしてくれている。三度の飯より睡眠より本が好き、凍死するまで読み続けるタイプ。真冬のバス停で頭に雪をのっけたまま、一晩中本を読み続けるくらいなのだから。そんな人めったにいないだろうけど。彼女の本好きっぷりに共感しながらも、さすがにそこまでは読めない。

オツイチ小説再生工房

これらの物語は、乙一の完全オリジナルではありません。

集英社のWEB文芸【RENZABURO】の「オツイチ小説再生工場」からうまれたもので、読者のボツ原稿を乙一がリメイクするという企画から生まれた物語。
どうりで「っぽい」という感想ばかりになるはずだ、と自分の感覚に妙に納得。
乙一による乙一っぽい物語たち。

あとがきでは、乙一さんがそれぞれオリジナル小説をどのように調理したのか解説してくれています。

また、書籍化にあたり本のタイトルもTwitterで募集し、【ゆーまさん】の考えてくれた「箱庭図書館」というすてきなタイトルが生まれました。

一般の方と作家のコラボ小説という企画も楽しいですね。

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本が好きな人におすすめです。

中学生・高校生の朝読書にも。

文庫: 352ページ
出版社: 集英社
発売日: 2013/11/20

著者プロフィール

乙一(おついち)

1978年10月21日生まれ。福岡県出身。

96年、17歳の時に『夏と花火と私の死体』で第6回集英社ジャンプ小説・ノンフィクション大賞を受賞し、デビュー。いくつかのペンネームを持ち、ライトノベル、ミステリー、ホラー、青春小説など、さまざまなジャンルで執筆。本名・安達寛高として、映画監督・脚本も務める。

【主な受賞歴】

夏と花火と私の死体』第6回集英社ジャンプ小説・ノンフィクション大賞

GOTH』第3回本格ミステリ大賞ほか

ZOO』第17回山本周五郎賞候補

銃とチョコレート』第23回うつのみやこども賞

 

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