藤岡陽子『晴れたらいいね』

藤岡陽子「晴れたらいいね」表紙
  • 平成の看護師が戦時中のマニラにタイムスリップ!?
  • 命が奪われる戦場で、命を救うということ
  • 読書感想文にもおすすめです

本の紹介とレビュー

東京の総合病院で看護師をしている高橋紗穂は、ある日、勤務中に病室で大きな地震に襲われ気を失う。しばらくして目を覚ますと、沙穂は見慣れない場所に倒れていた。

知らない人たちが親しげに声をかけてくれる。
ふと見ると、自分がおかしな恰好をしていることに気づく。
丈の長い白いスモックのようなものに着替えさせられている。
ここはいったいどこなのだろう。彼らはいったいだれなのだろう。

信じられないことに、そこは昭和19年8月のマニラだった。太平洋戦争真っ只中で、紗穂は従軍看護婦の「雪野サエ」となっていた。

終戦まであと一年。現代に戻る方法も見つからず、紗穂は「雪野サエ」として仲間とともに兵士たちの看護を続ける決意をする。やがて、戦況は悪化していき、傷つき倒れる兵士の数は増えていく。

生きてみんなで日本に帰ることができるのか。
沙穂もまた、生きて現代に戻ることができるのか。

不安に押しつぶされそうになりながらも、お互いを励まし合い、支え合いながら、彼女たちは看護師として、命を救うために闘い続ける。

日本の兵士がひとり死んでも、敵の兵士をふたり殺せばその戦いは勝ちになる。

五人死んでも五人殺せば、引き分けになる。それが戦争です。

でも、私たちにとっては命を救うことを仕事にしている看護婦にとっては死に引き分けなんてありません。

一と一の死は二であって、五と五の死は十になります。

(本文より)

武力や暴力で白黒をつける戦争は「勝ち」だけが価値になる。無傷のまま終わる戦争はない。どんな勝ちにも、戦争には必ず犠牲が伴う。多くの命と引き換えにしても守らなければならない信念などあるだろうか。

命を捨てて戦うことを求められる戦場で、命を救う使命を背負い彼女たちが懸命に守っているのは、その先にある未来だ。

命を救う看護師という職業や命を生む女性の視点だからこそ語れる”命の尊さ”。命にかかわる仕事に興味のある人や女性におすすめです。

第二次世界大戦を舞台に描かれた物語ですが、現代の女性が主人公なので、戦後生まれの自分たちの目線で読めるのがこの本のポイント。「戦争は悪い」わかっているけれども、戦場でその声をあげることに意味はない。それならば、自分がいまやるべきことはなにか。戦争が失うものの大きさと命の大切さを伝えてくれる1冊です。

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中学生・高校生にぜひ読んでほしい1冊、読書感想文にもおすすめです。

タイトルの「晴れたらいいね」はDreams Come Turuの曲名より。くたくたになって歩き、マニラからバギオに到着したサエたち。最後の上り坂でみんなに「何か歌って」と言われサエが歌ったのが、この歌。平成からやってきたサエにとってなじみのこの歌は、みんなの心に故郷の懐かしい景色を呼び起こし力になる。文庫本も出ました。個人的には単行本の表紙の方が好きです。

文庫: 345ページ
出版社: 光文社
発売日: 2017/8/8

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