文庫: 216ページ
出版社: 集英社
ISBN-13: 978-4087455410
発売日: 2017/2/17
- 春・新しい季節のはじまりに
- あなたを見ていてくれる人がきっといる
- 和菓子が出てくるおいしい小説
本の紹介(あらすじ)
結婚を間近にひかえたさくらの前に、ある日突然「兄」が現れた。
兄といっても、どう見てもさくらよりも年下。
それに、さくらにはもちろん、兄などいない。(私にも兄などいない)
どこからともなく現れた見知らぬ男は、さくらの生年月日からさくらが音痴なことも、牛乳が飲めないことまで知っている。
兄と言い張るこの男はいったいだれ?
さくらのアパートの前で待ち伏せをしたりと十分怪しいのだが、お調子者なところがあったり、さくらの結婚相手の山田さんがどんな人なのか本気で心配なんかする。
さくらと一緒に、狐につままれたような気持で読み進めるのだが、だんだんこの男が何者だっていいじゃないかと思えてくる。
物語に登場するだれもが(山田さんも母も妹までもが)この「兄ではない兄」にさほど警戒心を持たずに、すんなり受け入れちゃってるし、何よりもさくらのことを本当の妹として心配しているのだもの。
山田さんちの和菓子屋さん(もちろんさくらの嫁ぎ先となる)に押しかけて大福をたらふく買い、デートにくっついてくるのも、さくらを思えばこそ。本当の兄だって、こんなに妹のことを考えないだろう。
だれでもきっと、人には話さずにずっと抱えている心の痛みがあるだろう。さくらにも、そんな過去がある。結婚という節目を迎え、あたたかく見守ってくれる「兄」の存在に、さくらはこの傷と向き合う時間をもつ。
(本文より)
今まで誰にも話さなかった出来事は、口にしてみると取るに足らないことに変わっていた。これくらいの挫折は、生きていくうえでごく自然に起こることだ。ふたを閉めて自分で重苦しい記憶に変えていただけで、その時々にすてきな出来事もあった。表に出せば、そのすべては懐かしい過去になっていく。
自分のことをちゃんと見ていてくれた人がいる、という事実は勇気になる。
もしかしたら、自分のことをすごく気にかけてくれている人がいるのかもしれない。まわりを見回してみて。
あなたのことを見てくれているだれかが、きっといるはず。