周防柳【八月の青い蝶】~第26回小説すばる新人賞

平和

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あの夏、叶わないままの幼い恋の約束

八月の暑い日。亮介は、あと二週間で七十八歳になる。急性骨髄性白血病を患い、言い渡された余命はもう過ぎていた。亮輔の希望もあり、病院から自宅療養へと切り替えることになり、妻と娘は、その準備に追われていた。

亮輔は、中学一年生の時に被爆している。白血病もそれが原因と思われるが、亮輔にとっては長い間発病せずにここまで生きることができたことの方がむしろ奇跡だった。これまで必死に生きてきた。

亮輔が日ごろ大事にしていた仏壇を掃除した妻は、引き出しからとあるものを見つける。それは古めかしい昆虫の標本箱で、中には3センチほどの小さな青い蝶が虫ピンに射抜かれて収まっていた。右側の前翅先端がわずかに焼け焦げているようだ。亮輔が誰にも語ることなく、仏壇の奥に大切にしまっていた淡い秘密。

「また八月になったんかの」

自宅で八月を迎えた亮輔の記憶は、またあの夏へと向かう。軍人だった父、その父の留守を守っていたのはたくましい母と優しい祖母だった。そして、離れに住んでいた父の幼い愛人・キエ。虫も殺さぬようなかれんな顔をして、手際よく蝶を射止める彼女の胸の内を思っては、どうすることもできない自分の幼さを突きつけられた。それは初めて知る恋だった。

昭和二十年八月六日、広島。その朝、亮輔はキエとひとつの約束をしていた。もう叶うことのない約束のあの夏、すべてが終わり、あそこから始まった。

いつか「きえさんのみらいは、わしがあげる」と約束した。その未来を奪ってしまったのは自分だったのか、それとも父なのか。

消えることのない幼い恋心の憧れと後悔。終戦後、彼らが背負わされたのは加害者意識と被害者加害者意識。交錯する矛盾の中に身を置かれ、ジリジリと焼かれるような息苦しさの中、ただ必死に生きてきた。誰にも語ることがなかったからこそ、物語は完結せずに、いつもそこにあり続ける。深く余韻を残す物語。

受賞歴など

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