- 辻村深月さんの短編集
- ミステリーというよりもサスペンス風
- 第147回直木賞受賞作
狂気はすぐそばに
止めようも抗いようもなく、気づくと狂気は隣にいた。
自分がいた場所が少しずつおかしくなっていたのだろうか。
それとも、おかしいと気づかずにそこへ自分から入り込んだのだろうか。
いずれにしろ、自分が気が付かないうちにそういうことになっていたらしい。
狂っているのは外の世界か、自分の世界か。
りっちゃんのおかあさんは、泥棒だ。近所の家に入ってお金を盗む。まわりのみんなは知っていて、それを知らないふりをして暮らしている。りつこはその暗黙の了解のようなものに、どこか気味の悪さを感じている。(「仁志野町の泥棒」)
どの物語にもお尻がむずがゆいような居心地のわるさが漂う。
居心地の悪さを作り出す人、その空気に慣れてしまっている人、どちらをも見ている人、何も感じない人。
恋人や夫や友達や、時には子どもーすでに自分の生活の中に入り込んでいるものーが少しづつ狂気をはらみだしても、こちらは気が付かない。それどころか、その狂気にごく自然に含まれてしまう。
少しずつ霧が濃くなっても、視界をすべて遮られるまでは「大丈夫」であると思うかのように。
目に見えない微妙な変化にそれと気づかずに、その線を踏み越える人たちの心情がうまく描かれている。その線は、いったいどこにあったのか、読み終えてもわからない。
いずれにしろ、最後まで取り込まれている狂気に気づかない人はきっと幸せだ。
ドラマ「鍵のない夢を見る」
2013年WOWOW「連続ドラマW」にてドラマ放送。全5話。
【キャスト】倉科カナ、成海璃子、木村多江、 高梨臨、広末涼子
5人の女優がそれぞれ短編の主演女優を務めるミステリーサスペンス。
ブックデータ
文庫: 269ページ
出版社: 文藝春秋 (2015/7)
発売日: 2015/7/10
受賞歴など
第147回(2012年上半期)直木賞受賞作
短編「芹葉大学の夢と殺人」が第64回日本推理作家協会賞短編部門候補作
*もくじ*
仁志野町の泥棒/石蕗南地区の放火/美弥谷団地の逃亡者/芹葉大学の夢と殺人/君本家の誘拐