辻村深月『きのうの影踏み』~不思議で実は怖いおはなし

こわい | 短編集

こわい話に踏み込んではいけない

わたしが通っていた小学校は、当時創立100周年を超えていた。戦前から現存していた建物はさすがになかったと思うが、全体的に暗く、わたしはこの校舎も学校も好きにはなれなかった。

噂によると、深夜には音楽室のベートーベンの目玉が動いたり、低学年用のトイレの左から番目のトイレの穴をのぞくと花子さんと目が合うのだった。もちろん私は現場を押さえたことはない。どこの学校にもあるような怪談話はどの教室にあったが、中でも、体育用具入れの天井に染みついた人間の上半身の形をした焼け焦げたような跡は、「お父さんが子どものころからあったそうだ」などと言い出す子もいて、私たちのなかで最も恐れられていた。夜になると歩き回るだとか、触ると恨みをかうだとか、後付けされたような「怖い話」が付きまとっていた。あのころのわたしたちは、怖い話を単に楽しんでいる節があったように思う。

見えない世界がすぐそばに存在するかもしれず、自分がいつそこに引きずり込まれるかもしれないという恐怖とともに、心の底にあったのは単なる好奇心だったようにも思う。

よせばいいのに、小学生たちが集まると誰からともなく、トイレの花子さんを呼び出そうとしてみたり、口裂け女を探し出そうとしたり、こっくりさんを呼びだそうとしてみたりした。そうして、そんな夜は決まって心細くなって怖くなるのだ。

よせばいいのに。

よそ者は面白がって「ナマハゲ」を体験してみたいなどという。

よせばいいのに。

あの子が消えちゃえばいいと、本気になって願ったりする。

よせばいいのに。

噂の発信元を探し出そうとしたりする。

あるいは。

少しづつ鮮明になってゆくおかしなファンレター。

あるいは。

子どもにだけ見せるだまだまマークのような世界。

それは、突然にはじまるカウントダウンかもしれない。気づいた時には、抗いようのない世界に引きずり込まれている。不思議な物語は、私たちの心を乱しざわつかせるが、物語が恐怖を送り込む。

辻村深月さんの『きのうの影踏み』は、そんな日常と隣り合わせにある少し不思議で実は怖い「都市伝説」のような小さなおはなしを集めた短編集。「恐怖」が娯楽となりえるのは、それが自分がそこにいないという「安定」があればこそ。もしも、あなたの身近にこんな不思議な噂が転がっていたとしても、深追いしないほうがいいと思うな。

もくじ

十円参り/手紙の主/丘の上/殺したもの/スイッチ/私の町の占い師/やみあかご/だまだまマーク/マルとバツ/ナマハゲと私/タイムリミット/噂地図/七つのカップ

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