東野圭吾『サンタのおばさん』

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女のサンタクロースなんて前代未聞!?

ここはフィンランドのある小さな村。

ひとりの太った男が汗だくで走る。実はこのおじさんはサンタクロース。

今日は大事な会議の日。遅れては大変と急いでいるところ、道に迷ったひとりの女性と出会う。ちょっと小太りのこの女性、失礼だが「おばさん」である。

どうやら新しい事務員らしい彼女をサンタ協会まで案内する親切なイタリアサンタ。

さて、今年のサンタクロース会議の一番の議題は、現会長の退任による新会長と、新しいサンタクロースの選出である。そこへ会長が連れてきた新しいサンタ候補は、なんと!?さっきの小太りの女性だった!!

女のサンタクロースなんて前代未聞。みんなは簡単に納得しない。

だって彼女には髭がない!

だって彼女の眉は白くない!

だって彼女は女だ!

会長はみんなにたずねる。

「なぜ、サンタクロースは男性だと決めてかかるのかね」

サンタは父親たちの最期の砦

1945年に戦争が終結すると、日本中に大革命がおこった。とりわけ女性をとりまく社会認識は大きく動く。その年の12月、婦人参政権が認められ、男性と同じように女性が国政に参加する権利を得た。これは、日本の女性史上とても大きな最初の一歩と言える。1985年には男女雇用機会均等法が制定される。そして現在、女性の社会進出は「当たり前」のことになりつつある一方で、「権利」は与えられても、まだまだ「認められている」とは言い難い現状がある。男性社会は女性の社会進出に対していまだに渋い顔を見せている。

女性の社会進出の厳しさは、こんなところにも。

髭がない、眉が白い…など、どれも取るに足らない理由を並べ立て、サンタたちはおばさんサンタを拒む。ここで日本サンタが前に出る。

「サンタは父性の象徴!サンタクロースはいわば父親たちの最期の砦なのです!」

女性サンタクロースが現れたら、ますます男性(父性)の価値が軽んじられてしまう!と。それは決定的な敗北宣言である。

つまり男性たちは、女性たちが活躍しすぎると、自分たち男性の存在意義が薄れてしまう…と考えているようなのです。朝早く起きてご飯を作り、家事も仕事もバリバリこなし、美しくあたたかく笑顔が似合う頼りがいがある母性の全能さに、男性たちは怯えているのです。

そう、彼らは知っているのだ。そもそも、この世に母親に敵うものなど存在しない。だって、みんな母親から生まれているのだもの。勝てるわけがない。それは当然かもしれない。だから虚勢を張ってしまうのだ。

夫を亡くし、ひとりで息子を育てるおばさんサンタ候補のジェシカは言う。

「サンタは父性の象徴です。だけど、それを与えられるのは男性だけではないはず」と。だって、母性を与えられるのは女性に限らないはずだから。

大事なことは、こういうことだと思うのです。

子どもたちに夢や希望を与える仕事はーサンタに限らずどんな人にとってもーとても重要なことで、この世界の最重要事項と言っていい。男にしかできないことや女にしかできないことは確かにある。しかし、男だとか女だとか、産んだとか産まないとかにこだわらず、協力しあえば子どもたちにもっと素晴らしい贈り物ができるはず。

もうすぐクリスマス。あなたの大切な人のもとに、サンタさんがとびきりのプレゼントを届けてくれますように。忘れないで。サンタさんの正体は男かもしれないし、女かもしれないし、もしかしたらあなたかもしれないね。

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