タチアナ・ドロネ『サラの鍵』~フランス・ヴェルディヴの真実

サラの鍵
サラの鍵 (新潮クレスト・ブックス)
新潮社
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出版社 ‏ : ‎ 新潮社
発売日 ‏ : ‎ 2010/5/1
ハードカバー ‏ : ‎ 423ページ

  • 高校生にぜひ読んで欲しい
  • 戦争と平和について考える本
  •  映画「サラの鍵」原作
  • 読書感想文にもおすすめ

本の紹介

第二次世界大戦下、ナチによるユダヤ人の迫害を生き延びたユダヤ人たちは世界中にちらばり、彼らによるホロコーストの記録は世界中に残されている。そこからたくさんの物語が生まれた。それらの物語は、ある者たちにとっては家族の記録であり、自分の生きる意味となる。戦後70年以上が過ぎ、ホロコーストを生き延び、鮮明な記憶を残している人も少なくなってきた。だからといって、ほとんどの事実はもう語りつくされたと考えるのは早い。戦争の記憶は、誰もが忘れ去りたいものだった。長い間、語られることのなかった歴史がここに物語られている。

1942年7月16日。夜の静寂を破り、激しくドアを叩く音が響いた。「警察だ!あけろ!早く!」ドアの向こうにいたのは、フランス人の警察官だった。

10歳の少女・サラは彼らがドイツ兵でないことにほっとしていた。彼らは、サラと母親に荷物をまとめるように言い渡した。奥の寝室では、怖くて声を出せずにいる4歳の弟が身を潜めていた。サラは着替えると、弟に一緒に来るように言った。弟は一緒に行くことを拒み、「秘密の部屋」へ逃げ込んだ。寝室の奥にある鍵付きの小さな納戸は、ふたりの秘密の遊び場所だった。「ここにいた方が安全かもしれない」

サラは納戸に鍵をかけると弟に声をかけた。

「あとでもどってきて、出してあげるからね。絶対に」

その後待ち受けていたのは、10歳の少女には想像もできないようなおそろしい運命だった。

ー60年後のパリ。

アメリカ人ジャーナリストのジュリアは、夫のベルトランと11歳の娘・ゾーイと夫の祖母の古いアパルトマンへと移り住んだ。第二次世界大戦中に起こったヴェルディヴの一斉検挙について取材をすすめていたジュリアは、遺族や生存者の声を集め、犠牲になった子どもたちの真実に迫ってゆく。

1942年、パリはナチの占領下にあった。ナチスはフランス警察に、ユダヤ人の一斉検挙の命令を下した。

その日の朝、13,000人以上ものユダヤ人がフランス警察の手によって検挙された。ヴェロドローム・ディヴェール(通称ヴェルディヴ)という屋内競技場に集められ、不衛生な環境に6日間押し留められたあと、アウシュビッツへと送られた。アウシュビッツからの生還者は400人ほどしかいなかっという。

一斉検挙の対象は、大人と2歳から12歳の子どもたちだった。4千人以上の子どもたちが拘束されたという。子どもたちの大部分はフランス生まれであり、法律上はフランス人だった。その子どもたちのだれひとりとして、アウシュビッツから生還した者はいないという。

この小説の背景となっているヴェルディヴの一斉検挙について、戦後もフランスで語ることはタブーとされ、国民にも知らされずにいた。長い年月、公の場で語られることはなかったという。

1995年7月16日に、当時のシラク大統領が演説の中で、53年前のこの日にフランス人警察の手により行われた一斉検挙により多くのユダヤ人を死に追いやったことを認め、国家として正式に謝罪した。この演説ではじめて、フランスでも大規模なユダヤ人の迫害があったことを知った国民も多かったという。その事実は多くのフランス人に衝撃を与えた。

ヴェルディヴは1959年に壊され、現在跡地には別の建物が建てられ祈念碑が置かれている。著者がこの物語を書くことで、多くの人が埋もれていた歴史を読み返し、平和について考えるきっかけとなるはず。

ブックデータ

映画化

2010年劇場公開。フランス製作。
ジル・パケ=ブランネール監督
主演:クリスティン・スコット・トーマス(ジュリア役)

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