中学生作家デビュー作!鈴木るりか『さよなら、田中さん』

家族 | 高学年

  • 現役中学生作家・鈴木るりかデビュー作!
  • 「12歳の文学賞」史上初三連覇達成!
  • 楽しくてたくましい!じんわりと心あたたまる家族の物語

現役の中学二年生の女の子が作家デビュー。小学館が主催する「12歳の文学賞」を小4小5小6と3年間連続で大賞を受賞。審査員のあさのあつこさんも大絶賛。加筆修正した受賞作含む連作短編集。

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貧しくとも楽しい田中家

もくじ

いつかどこかで…第10回「12歳の文学賞」大賞受賞作を改稿

花も実もある

Dランドは遠い…第8回「12歳の文学賞」大賞受賞作を改稿

銀杏拾い

さよなら、田中さん

田中花実は小学5年生。工事現場で力仕事をしている母とふたりぐらし。花実の母は、小学生の頃に両親を亡くして親族もいない。花実は父のことを何も知らない。母に聞いても教えてくれないので、父はきっと犯罪者に違いないと花実は思っている。

ふたりは、この世でふたっりぼっちの家族。

暮らしは貧しい。

よく食べるのにやせっぽっちの母は、日に焼けて、畑から掘り出したばかりのゴボウのようだと花実は思う。母は、よく拾い食いをするが、不思議なことにお腹は壊さない。

しっかりものの花実は、友だちとDランドに行くために自動販売機の下の小銭を漁ったりする。←残念なことに、たいした小銭も落ちていない…

慎ましく暮らしているが、「現実」は目の前に立ちはだかる。

花実は、こう思う。

もし自分たち親子が違う国、違う時代に生まれたとしても、根っからの貧民に違いない、と。

江戸時代なら、重い年貢や飢饉に苦しむ農民。

あるいは、過酷な労働を強いられるピラミッド造りの奴隷。

でも、と花実は思う。

どんなだって、お母さんと親子ならいい。(例え生まれ変わるのが人間じゃなくても)

貧しくとも、笑いにあふれたくましい田中家の日々。

田中家名言集

驚かされるのは、その語彙力。花実やお母さんの会話の中に、最近はあまり耳にしなくなった言葉がちょこちょこと登場し、「おっ!」と驚かされます。花実のおかあさんは、親族もいない天涯孤独の身。「学歴がない」というお母さんですが、新聞をよく読み「学歴はなくても、教養は後から身に付けられる」と話します。

ここで私が選ぶ「田中家の名言集」をご紹介。

みなさんはいくつ知ってますか?

秘すれば花(ひすればはな)

世阿弥(ぜあみ)の言葉。

「秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず―。 」(風姿花伝より)

「なんでも明らかにすればいいというものではない」という意味です。芸道においてはその種を明かさないことこそが、その芸に価値を与えてることがあります。種を明かしてしまっては、感動が薄れてしまうということですね。

これは、自分の父親のことを聞きたが花実に母が向けたひとこと。合わせて「謎以外何を愛せよう」というニーチェの言葉も引用しています。

夜目遠目傘の内(よめとおめかさのうち)

大家のおばさんの計らいで、スーパーの社長とお見合いすることになったお母さん。日焼けしすぎてまるで煎った豆である母がレースの日傘を差す姿を見て、大家のおばさんのひとこと。


画像リンク:楽天ショップ

「夜目遠目傘の内」とは、物事が見えづらいことで実物よりもよく見えることを指す皮肉。夜見たとき、遠くから見たとき、傘を差しているとき。女が実際よりも「いいおんな」に見えるという妄想男子用語。

この日、だれよりも気合の入ったばっちり厚化粧でお見合いに同席した大家のおばさんは「わてが松坂慶子だす」を連発。おばさんのおかげで、お母さんがいつもよりもおしとやかに見えるという効果も発揮。ちなみに松坂慶子は昭和を代表するセクシー女優。昭和の壇蜜?

スイカ畑で靴ひもを結び直すな

疑われる行動は慎めという教訓。

プールのあとの女子の着替えをのぞいたという冤罪をかぶってしまったクラスメイトの三上君に対して、花実のひとこと。

「すももの木の下で冠を正すな」も同意義。

気の弱い三上君は、この後、やってもいない前年のパンツ行方不明事件の罪も乗っけられてしまうというかわいそうさ。

ホイットマン


ウォルター・ホイットマン(1819-1892)

アメリカの詩人。「自由詩の人」と呼ばれる。

寒さに震えたものほど、太陽を暖かく感じる。
人生の悩みをくぐったものほど、生命の尊さを知る。

お母さんがぽつりと言ったひとこと。

天涯孤独で育ってきたお母さんにとって、ホイットマンのこの一節は自分の人生をぎゅっと凝縮させ代弁したような詩なのかもしれません。

「さよなら、田中さん」で、失意のどん底にいる花実のクラスメイト・三上くんにお母さんはこんな言葉を投げかけます。

悲しい時、腹が減っていると余計に悲しくなる。辛くなる。そんな時はメシを食え。
もし死にたいくらい悲しいことがあったら、とりあえずメシを食え。
そして一食食ったら、その一食分だけ生きてみろ。
・・・
そうやってなんとかでもしのいで命をつないでいくんだよ

そうして命をつなぎいつか振り返った時に、太陽の暖かさを感じる日がくるのでしょう。

お母さんにとってそんな暖かい「太陽」こそが、花実の存在なのかもしれないですね。花実にとっても、毎日を明るく照らすおかあさんの存在はきっと「太陽」

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