ザック・エブラヒム『テロリストの息子』

家族 | 社会

  • 中学生・高校生におすすめノンフィクション
  • 全米がYAにおすすめしたい「アレックス賞」受賞作

あなたは、親の犯した過ちに悩まされているとする。親の罪を非難する数多くの声から隠れるように、毎日を何かから耐えるように過ごしている。そうして、もしかしたら自分もいつか同じ過ちを犯してしまうのではないかというだれにも言えない苦悶の中にいる。

もし、そんな苦しみの中にいまあなたがいるとしたら、ぜひこの本を読んでみて欲しい。

この本の著者ザック・エブラヒムは、きっとあなたと同じような悩みを抱えて、克服してきた人だからだ。

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父がテロリストになった日

ザックは1983年アメリカ・ペンシルベニア州ピッツバーグ生まれ。父は工業系エンジニアの仕事をしているエジプト人。教師をしている母はアメリカ人だ。

1990年11月5日。

夜遅くに母親に揺り起こされ、突然、身の回りの荷物をまとめるように促された。7歳のザックは、何が起こったのかわからないままに眠い目をこすり、言われるままに準備をした。

この日、ニューヨークのホテルで大きな事件が起こっていた。ユダヤ防衛同盟(JDL)の創立者であるラビ・メイル・カハネルがスピーチの後で銃殺された。ラビは、ユダヤ教において指導者をさす。

犯人とされるアラブ人の男も、逃げる途中で銃撃された。テレビに映し出された犯人とされるアラブ人の男エル・サイード・ノサエル・・・それはザックの父親だった。

(しかし、この時ザックはまだ事件の真相を知らない)

この日の出来事は、その後のザックの人生を大きく決定づけた。

逃亡中に銃で撃たれ重体となった父は、奇跡的に一命を取り留め刑務所に服役することになる。

「ジハード」という言葉を聞いたことがあるだろう。イスラームの信徒の義務のひとつである。日本語では「聖戦」と訳されている。これは本来の意味とは少し違うようだが、現在は、自爆やテロなどのような外に向けた暴力的行為の多くを「ジハード」と表現しているようだ。サイード・ノサエルはアメリカ本土ではじめて人の命を奪った最初のジハーディストとなった。

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二度目のテロ計画

サイード・ノサエルは、大多数の人々からは冷酷なテロリストとみなされたが、一方で彼と同じ信条をもつ人々からは英雄と呼ばれることになる。家族は殺害の予告やメディアからの嫌がらせを受けながらも、夫や父の罪をなじることはなかった。それまでザックや家族にとって、決して悪い夫、悪い父ではなかった。

家族は夫や父がまた戻ってくる日を期待していたが、思いもよらない出来事が再び起こる。

1993年2月26日。

世界貿易センターノースタワーの地下駐車場で爆発が起こる。やがて、この事件に服役中のサイードが関わっていたことがわかる。しかも、ザックの父は実現すればさらに多くの死者が出たであろう大きなテロ計画を進めていた。

父親がテロの実行犯であるばかりでなく、また同じ過ちを繰り返そうとしているという事実は、ザックと家族を大きく失望させた。

もう二度とひとつの家族には戻れない。

家族は、サイードのテロ行為を認めることで彼から離れる決意ができた。

父のしていることが多くの人の命を奪うだけの残忍な行為だと認めること以上に、ザックを苦しめたのは、父は自分たち家族よりもテロリズムを選んだという事実だった。家族であることをやめても、サイードはザックの父であることに変わりはなかった。

ザックは、なぜ父がテロリストになったのか考えるようになった。

家族の愛よりも強い憎しみや暴力の源とはなにか。幼いころから馴染んできた教えから離れ世界を客観的に見直す作業でもあった。それが自分の中にも流れているかもしれないという不安と向き合いながら、自分の中にあるはずの真理や思想をほどきなおす。

自分や世界と向き合い、ザックは父とは違う道を進む選択をとる。ザックの苦しみや悲しみに触れてみれば、テロリズムが、それを信じる彼らにも決して幸せな結果をもたらすわけではないことはないことがわかる。

現在も世界には暴力的な思想が消えることはなく、憎しみの連鎖は続いている。憎しみや偏見のルーツにあるものを少しでも捉えることができれば、その連鎖を断ち切ることも可能なのだ。

全米アレックス賞受賞

ザック・エブラヒムの『テロリストの息子』は、アメリカ図書館協議会が年に一度「12歳から18歳までのヤングアダルトに特に薦めたい大人向けの本10冊」に贈るアレックス賞を2015年に受賞。ザックはいま、平和と非暴力のメッセージを伝える活動をしている。親の犯した犯罪で悩む人たちに向けても、その呪縛にいつまでもとらわれることはないという希望を伝える。

「僕はこれまでの人生を、何が父をテロリズムに惹きつけたのかを理解しようとすることに費やしてきた。そして、自分の体の中に父と同じ血が流れているという事実と格闘してきた。僕が自分のストーリーを語るのは、希望を与えるような、誰かのためになるようなことをしたいからだ。それは狂信の炎の中で育てられながらも、代わりに非暴力を受け入れた若者の姿を見せること。自分を崇高な人物として描くことはできないけれど、僕ら一人ひとりの人生にはテーマがあって、僕の場合はこれまでのところ、たとえば、こんなところだ。
誰にだって選択する権利がある。憎むことを教え込まれても、寛容な生き方を選択することはできる。共感の道を選ぶことはできるのだ」(本書より)

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