辻村深月『ツナグ』~もう一度会いたい人はいますか?

辻村深月『ツナグ』
  • 心あたたかくなるファンタジックな小説
  • 第32回吉川英治文学新人賞受賞
もう会えないはずの人にもう一度だけ会いたい。そんな人に読んで欲しい本があります。辻村深月さんの『ツナグ』

死者との再会を叶える使者(ツナグ)

使者(ツナグ)。

一度だけ、死者との再会を叶えてくれるのだという。
生者にとっても死者にとっても、たった一度だけ。
満月の夜に導かれた4つの再会の物語。

突然死したアイドル・水城サヲリに会いたい平瀬愛美。
ガンで亡くなった母親に土地の権利書のありかを聞きたいという靖彦。
親友の御園を死なせたのは自分ではないのかと苦しむ女子高生の嵐。
7年前に行方不明となった婚約者を待ち続けている土谷さん。

死者に会うことで、後悔は消えるのか…。
読みやすいストーリーに、あたたかい気持ちになれる作品。

5つめの物語「使者の心得」は、「使者(ツナグ)」である歩美の物語なのだけれど、これが一番おもしろかった。最後に歩美の物語を知ることで、これまでの4つの再会を二度味わえるしくみになっています。いろんな方のレビューで「泣ける」と絶賛でしたが、残念ながら私はそこまでの感動は味わえなかったなぁ。
映画の方がぐっときそう。映画にも期待です。

どの物語も、生前に後悔を残しているわけではない。
愛美はいちファンなのだからサヲリに会えるわけなどなかったのだし、土谷さんはキラリに指輪つきでプロポーズもきちんとできている。靖彦はガンを告知しなかったことを心残りにしているが、つまづくほどの後悔ではない。

それでも、人は死者に会いたくてたまらなくなるんだね。
大切な人の死は、かならず心に穴をあける。
それはほかのものでは埋められなくて、さみしくてからっぽになって、なんとかその穴をうめたいと思う。

「自分ならば、誰と会うことを願うか。」
本の帯にも書かれているが、解説の本田孝好もこう語る。
その思いでこの本を読む人は多いのだろうけれど、私にはその思いは浮かばなかった。

心にぽっかりあいた穴を「死者との一夜の再会」でうめられるとは私は思わない。
生きているうちにしか、できないことがある。
だからこそ、生きていることがこんなにも愛おしいのだと思う。
あなたとわたしが生きているうちに、つないでおきたいことがある。
この本を読んで感じたのは、そんなこと。

穴はいつまでものこり、その穴とともに生きていくだけの強さを私たちは持っている。
そういうことが私にとっての希望だったりする。
それでも、こんなファンタジックな希望の物語もあってもいいじゃないか。

おすすめポイント

第32回(2011年)吉川英治文学新人賞受賞

映画原作

2012年10月劇場公開
【脚本】監督:平川雄一郎
【主演】松坂桃李 樹木希林 佐藤隆太 桐谷美玲 橋本愛 大野いと 遠藤憲一

ブックデータ

文庫: 441ページ
出版社: 新潮社 (2012/8/27)
ISBN-13: 978-4101388816
発売日: 2012/8/27

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