乙一『失はれる物語』

乙一さんの初期の短編より珠玉の作品をあつめた短編集。乙一さんの作品をまず読んでみたいという人におすすめの乙一的短編集。

あらすじ

*もくじ*

「Calling You」・・・『きみにしか聞こえない』より
「失はれる物語」・・・『さみしさの周波数』より
「傷」・・・『きみにしか聞こえない』より
「手を握る泥棒の物語」・・・『さみしさの周波数』より
「しあわせは子猫のかたち」・・・『失踪ホリディ』より
「ボクの賢いパンツくん」・・・2015年夏「角川書店ネガティブキャンペーン」賞品に印刷
「マリアの指」・・・『失はれる物語』
「ウソカノ」・・・書き下ろし

Calling You

わたしは、携帯電話を持っていない女子高生。携帯電話でつながっている周りの輪の中に入れないわたしは、いつしか空想の携帯電話を想像するのが楽しみになっていた。ある日、その想像で作り上げたその携帯電話から着信メロディーが流れ…。

失はれる物語

事故により植物状態になってっしまった私。残されたのは、右腕の皮膚の感覚だけ。ピアニストの妻は、感覚の残る私の右腕を鍵盤代わりに演奏を奏でるのだが…。

暴力的な行動から特殊学級に通うことになったオレ。4月にやってきた転校生のアサトには傷を治す不思議な力があった。

手を握る泥棒の物語

叔母と娘が宿泊する旅館へ出かけていった俺は、叔母のバックの中に高そうなネックレスと札束を見たつけ、強盗に見せかけてバックを盗もうと計画するのだが・・・。
こちらの作品は映画化されています。

しあわせは子猫のかたち

大学生になり、一人暮らしをはじめた僕。前の住人が飼っていたらしい白い子猫と暮らすようになるのだが、家の中で不思議なことがおこりはじめ…。
映画化原作。角川つばさ文庫からも刊行されています。

ボクの賢いパンツくん

パンツくんは、ボクの友だちだ。パンツくんは、算数の問題も解けるし、いろんなことを知っていてとても賢い。ある日、お母さんがもう小さくなったパンツくんを捨ててしまった!?
ブリーフからトランクスへと成長する少年とパンツくんの友情物語。
絵本としても出版されています。

マリアの指

夏が終わりかけたその夜、鳴海マリアは死んだ。マリアは姉の友だちで、彼女の体は電車に轢かれバラバラになった。数日後、マリアと仲のよかった白猫がウチの裏庭へ運んできたのは、”指”だった。僕は、マリアが死んだ本当の理由を探しはじめる。

ウソカノ

安藤夏は、ぼくの自慢の彼女だ。趣味はギターで水泳部。英会話スクールに通い、ミスタードーナツのホームカットとあんぱんが好きな女の子。思わず友だちについてしまった嘘は、どんどん大きくなり…。存在しない嘘の彼女と僕の恋の物語。

「Calling You」では、空想の携帯電話で話し、「失はれる物語」では、妻の存在はその指先でしかわからない。もういないはずの女と暮らす「しあわせは子猫のかたち」。「マリアの指」では、あるはずの指があるはずのないことを証明する。

「ウソカノ」では、存在しない彼女・安藤夏が現れる。
もちろん、本当はいない。どこにもいない、誰も見たことのないもの、である。それでもことば(文字)を並べれば、彼女はちゃんとそこに存在している。この物語の中に登場するように。

ブックデータ

中学生に「なにかおすすめの本ないですか?」と聞かれた時に、わたしが『カラフル』とともによくおすすめする1冊です。不思議な物語が好きな人におすすめです。

初期作品や書下ろしなど乙一さんらしい作品がぎゅっとつまった短編集。乙一さんを読んでみたいけれど、どれから読んだらいいだろう、という人におすすめです。

文庫本が刊行された当初は、単行本と同じ表紙だったのですが、2006年に新版が発売されました。単行本の表紙が好きで、単行本と同じ表紙の文庫本、2冊持ち合わせています。単行本の表紙がいちばん雰囲気が出ています。

著者プロフィール

乙一(おついち)

1978年10月21日生まれ。福岡県出身。

96年、17歳の時に『夏と花火と私の死体』で第6回集英社ジャンプ小説・ノンフィクション大賞を受賞し、デビュー。いくつかのペンネームを持ち、ライトノベル、ミステリー、ホラー、青春小説など、さまざまなジャンルで執筆。本名・安達寛高として、映画監督・脚本も務める。

【主な受賞歴】

夏と花火と私の死体』第6回集英社ジャンプ小説・ノンフィクション大賞

GOTH』第3回本格ミステリ大賞ほか

ZOO』第17回山本周五郎賞候補

『銃とチョコレート』第23回うつのみやこども賞

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