町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』〜孤独の声にそっと寄り添う物語

町田そのこ「52ヘルツのくじらたち」

心に深い傷を負いながらなにも語ろうとしない子の、諦めにも似た強い孤独に出会い、その苦しみに寄り添いたいと思った。彼女もまた、同じような痛みを抱えてきたから。

苦しみを吐き出して助けを求めることはたやすくない。

声にできない孤独や苦しみに寄り添うぬくもりの物語。

本の紹介

祖母のくらしていた小さな海の田舎町に引っ越してきた女性・貴瑚は、雨の日に傘を差し出してくれた子どものことが気にかかっていた。

肋骨の浮いた痩せた体、模様のように広がる痣のあと、少年は母親から「ムシ」と呼ばれていた。

貴瑚はなにも話そうとしない子どもの声を聞き、この子を守ろうとする。

貴瑚の過去にも苦しい日々がある。苦しい時に、声をかけて聴いてくれた人がいたのだが、その手を差し伸べ救ってくれたはずの人へ、貴瑚は大きな後悔を抱いていた。

子どもの苦しみの声を聞きたいと思うのは、いつかだれにも届かなかった自分の声に寄り添うことでもある。だれかに聞いてもらい救われた記憶がまただれかを支える力になる。だれかを支えることで、人はまた強くなる。

ひとり静かに暮らすつもりでやってきた新しい町で、ひとりの子どもとの出会いが彼女を強くしていく。

タイトルの「52ヘルツのクジラ」は、世界で一番孤独だと言われているクジラだ。

仲間と周波数が違うために、その声は仲間に届かないのだという。

広大な海に確かに響いているのに、その声を受け止める仲間はどこにもいない。何も届かない。

何も届けられない。それはどれだけ孤独だろう。

辛い時や苦しい時に、ひとりで抱え込まずに「助けて」と声をあげて欲しい。そういう言葉をたくさん聞く。しかし、その声は必ずしも掬い上げられるとは限らない。どんなに声をあげても受け止めるものがいなければ、なかったことと同じになる。

「わたしは、あんたの誰にも届かない52ヘルツの声を聴くよ」 

だれかの声を聴くことで、人は強くなる。

感想

本屋大賞受賞作品であり、人気の高い作品なので気になっていたものの、このところ重いテーマの作品にはあまり手が伸びず。体調もよかったのかなんとなくタイミングが合い、やっとページをめくる。

読んでは立ち止まり、ふたたび読み出して一気読み。だれにも、話せずにいる傷を抱えて孤独の中にいる人は少なくない、心の凝り固まった部分にそっと触れるような物語。優しさにふれたい人におすすめです。キーワードにもあるように、なかなか重いテーマを扱っているため、読み終えた後はしばらく呆然としてしまうでしょう。

キーワード

児童虐待・毒親・家族

おすすめポイント(受賞歴など)

中学生・高校生にもおすすめです。

  • 2021年本屋大賞受賞
  • 2020年の「読書メーター オブ・ザ・イヤー2020」1位
  • 王様のブランチBOOK大賞2020
  • ダ・ヴィンチBOOK OF THE YEAR2020第4位

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星を掬う (単行本)
中央公論新社
町田 そのこ (著)

52ヘルツのクジラたち (単行本)
中央公論新社
町田 そのこ (著)

出版社 ‏ : ‎ 中央公論新社
発売日 ‏ : ‎ 2020/4/18
単行本 ‏ : ‎ 260ページ

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