1970年代、自らの医師の存続をかけて「赤ちゃんあっせん事件」を明るみにし、特別養子縁組制度の必要を日本中に訴えた産婦人科医・菊田昇。これは、多くの”小さな命”を救った菊田の人生を綴った物語。
赤ちゃんあっせん事件
実親が子どもを育てることのできない場合、生まれた子どもが別の夫婦に引き取られ、戸籍上、実子として育ててもらえることを認める法制度がある。昭和六十三年に施行された「特別養子縁組」制度により、救われた子どもたちの数は1万4千件以上にのぼるそうだ。
菊田昇の生まれは宮城県石巻市、母は石巻で遊郭を営んでいた。このころの悲しい経験が、菊田が産婦人科をめざすきっかけとなっている。
産婦人科医として石巻に戻った菊田は、そこで望まない妊娠に苦しむ多くの女性たちに直面する。時代は変わり、遊郭は消えてしまった。しかしそこには依然として、祝福されない命がもたらす苦しみと悲劇が残されていた。すべての赤ちゃんに”生きる権利”はある。菊田は赤ちゃんの命のために、立ち上がる決意をする。
菊田は新聞に、思い切った広告を打ち出す。
「赤ちゃんをわが子として育てる方を求む」
この広告をきっかけとして、「赤ちゃんあっせん事件」は日本中に大きな論争を巻き起こす。養子縁組制度の必要性を強く訴える菊田だが、まわりの産婦人科医たちはこの主張に正面から反発を表明した……。
厳しい状況に置かれ挫けそうな菊田を支えたのは頼りになる病院スタッフたちと、なによりも生まれてくる命への敬意だろうと思う。味方のいない状況の中、自分の正しさを信じ医師としての倫理を貫いた菊田のまっすぐな強さに心打たれる。
すべての命は祝福され、生きる権利がある。菊田の行動は、そのことをまっすぐに証明してくれる。
菊田医師は、1991年に国連の国際生命尊重会議で第2回「世界生命賞」を受賞。ちなみ第1回オスロ大会ではマザー・テレサが受賞している賞です。
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※衝撃的な内容も含まれるので、高校生以上がおすすめかもしれません。
書名:赤ちゃんをわが子として育てる方を求む
著者名:石井光太
出版社 : 小学館
発売日 : 2020/4/16
言語 : 日本語
単行本 : 355ページ
ISBN-13 : 978-4093865746