ハードカバー: 229ページ
出版社: 評論社
ISBN-13: 978-4566024045
発売日: 2007/8/1
- 中学生・高校生におすすめ第一次世界大戦を描いた物語
- 2004年レッドハウス児童文学賞ほか受賞
- 読書感想文にもおすすめ
本の紹介(あらすじ)
イギリスの小さな村で大佐の慈悲のもとに暮らしているピースフル一家。一番上のジョーは脳に障害があるが優しくて楽しい兄、3つ年上の勇敢な兄チャーリー、そして末っ子のトーマス。お父さんは、森の中で倒木の下敷きになって亡くなった。大佐はとても嫌な奴だが、トーマス、チャーリー、ジョーの三兄弟は強い母の愛に支えられて、辛いときも寄り添いながら慎ましく暮らしていた。
家族と一緒に育ってきた幼馴染のモリーにトーマスはやがて恋をする。しかし、トーマスの知らないところでモリーと兄のチャーリーは愛を育んでいたことを知る。モリーとチャーリーは結婚し、モリーは本当の家族となった。
海の向こうでは第一次世界大戦が勃発し、このころフランスでの戦況は悪化していた。イギリスからも若い兵士を送り込まねばならないという。大佐の命令で兄のチャーリーが戦争に駆り出されることになった。もうすぐ赤ん坊の父親になるチャーリーが…。「ぼくも一緒にいく」トーマスは、自分もチャーリーと戦争に行く決断をした。
戦線のど真ん中に送り込まれたトーマスとチャーリー。
そこは町と呼べるものはなにもない、瓦礫と廃墟だけの場所でした。大砲の砲撃、毒ガス、火炎放射器、止むことのない砲声、泣き叫ぶ兵士の声…そこには想像もしていなかった惨状があった。
ぼくはもう神の慈悲も天国の存在も信じるふりすらできない。まったく信じない。人間同士がどんなにむごいことをするか見てしまった今では。ぼくが今いる地獄の存在なら信じる。この世の地獄だ。神が創ったのではなく。(本文より)
それでもトーマスは、チャーリーとともにこの戦争を耐え抜いて、また笑って村に帰れる日を思い描いていたのだが…。
第一次世界大戦について
この小説の時代背景となっている第一次世界大戦について知っておくと、より深くこの作品の伝えたいことが理解できると思います。この本をきっかけに自分で調べてみるのもいいですね。
1914年~1918年の第一次世界大戦は、ヨーロッパを中心に勃発した歴史上はじめての世界大戦です。その犠牲者の数は約3700万人と記録されています。
多くの若者が戦いにより命を奪われましたが、その中におよそ300人のイギリス軍およびイギリス連邦軍の兵士が脱走や臆病行為による罪で銃殺刑に処されました。残されている記録によると、ほんの1時間ほどで処罰の判決がくだされたものも。処罰された兵士たちの中には居眠りをしていただけで処分を受けたものもいました。彼らの多くは、戦争で傷ついた兵士たちだったそうです。惨状が繰り返される戦場で心の病を抱えた者も少なくありません。虫けらのように毎日命が奪われていく過酷な戦場での恐怖に耐えられる精神が強くて健康だなどとは、私は思いません。戦場から逃げ出したいと感じるのは当然の感情です。
若くて健康だという理由で、のどかな村の暮らしを奪われ戦場に強制的に連行された多くの若者の命を、身勝手な理由で奪う…。戦争が残すものは、悲しみとむなしさだけです(時に恨みも)。しかし、こうした戦争が一度で終わらずに再び世界大戦が始まってしまったのは、この戦争から人類が何も学ばなかったということなのでしょうか。
おすすめポイント
海外でも多数のブック賞を受賞、候補作となっている戦争小説です。ぜひ多くの10代に手に取って欲しい作品です。
受賞歴など
2003年ウィットブレッド賞候補作
2003年カーネギー賞最終候補作
2004年レッドハウス児童文学賞受賞
2005年ブルー・ピーター図書賞受賞
2005年ハンプシャー図書賞受賞
読書感想文にもおすすめ
【2008年】第54回全国青少年読書感想文コンクール課題図書(高校生の部)
映画「兵士ピースフル」
2012年劇場公開・イギリス製作
【監督】パット・オコナー
【出演】ジョージ・マッケイ、ジャック・オコンネル、アレクサンドラ・ローチ
本をチェックする
著者マイケル・モーパーゴ
1943年、イギリス・ハートフォード州生まれ。小学校教師を経て作家に。中でも多くの児童文学小説を発表しています。
第一次世界大戦の激戦地として知られているイーペルの町にある「フランダース戦場博物館(in Flanders Fields Museum)。モーパーゴがイラストレーターのマイケル・フォアマンとともに、この博物館を訪れた時、ここである一枚の写真と出会います。それは、戦場から逃げ出そうとして、その罪により銃殺刑に処された若いイギリス兵の写真でした。この写真に衝撃をうけたモーパーゴは、資料や記録を熱心に読み、彼らの物語を書くことを決意したそうです。
モーパーゴ自身が選ぶ「好きな自分の4冊」の中の1冊でもあるそう。それほど、モーパーゴにとっては思い入れの強い作品なんですね。