研究所のことは、もう大人には話したくない。だけど、君たち高校生にだけは話そう。カボチャのおじいさんは一人ひとりを見まわして続けた。
「君たちには知ってほしい。わしらのようなことを、くりかえさないためにもな」
本の紹介とレビュー
かつて戦時中に神奈川県川崎市にあったという秘密の研究所を知っているだろうか。戦後、秘密を守るために資料は処分され、関係者たちも研究所について語ることを禁じられた。それから長い年月が流れ、この研究所の存在は薄れていた。戦後75年を経て、研究所の秘密が明かされた。これは、戦争を知らない高校生たちが、かつての研究者と出会い、平和をつなぐノンフィクションである。
神奈川県にくらす高校生たちは、平和や人権をテーマにした研究をする中で、この研究所のことを知った。彼らはこの研究所についてさらに詳しく調べようとするが、手掛かりとなる資料は見つからずに調査は難航する。
同じころ、長野県の高校生たちもまた、秘密の研究所について調査をしていた。戦時中に神奈川県川崎市からひそかに移転されてきた研究所があったという。そこでは、どんな実験が行われていたのか。
消えた学校日誌の記録、たくさんの薬品、フラスコのような実験器具…少しずつ見つかる何かの証拠。しかし、それだけでは真相には近づけない。情報を集める中で、ついに、かつて研究所で働いていたという男性にたどり着く。直接話を聞けたら真相がわかるのではないか、高校生たちは期待を胸に長沢さんもとに向かうのだが、しかし、長沢さんは何も語ろうとはしない。
戦後75年、時間の経過とともに、戦争を知る方から直接はなしを聞く機会は少なくなった。先人たちの悲しみの上に立つ人々の努力によって、争いのない平和な時代を迎えられているが、いまだ、明かされないままの哀しみや苦しみがある。
長沢さんのように、沈黙を守りひとりで苦しみを抱えていた人たちがほかにもたくさんいたのではないかと思う。
秘密を保ったまま忘れ去られようとしていた歴史を掘り起こした高校生たちの純粋な探求心と、彼らにこそ伝えたいと心を開いてくれた体験者の交流に不思議な時間の縁を感じる。
親世代ではできないことが、孫の世代にだからこそと引き継がれることは不思議とよくある。関係性の妙というのか、興味深い。研究所の秘密が明かされるためには、75年間という時間は必要な時間だったのだろう。
戦争とは、暴力の支配である。暴力による恐怖は、それが終わった後も長い間、人を支配して苦しめる。苦しみの連鎖はまだ消えていない。
優し人々が、苦しみのなかで生涯を終えることのないよう、この先もずっと平和であるように、祈り続けたい。
個人的には、ノンフィクションをもとに映画化希望!!どなたか……
本をチェックする
書名:君たちには話そうかくされた戦争の歴史
著者名:いしいゆみ
出版社 : くもん出版
発売日 : 2015/7
単行本 : 127ページ