伊吹有喜『雲を紡ぐ』

伊吹有喜『雲を紡ぐ』表紙

手仕事が好きだ。仕事柄、手仕事といえば工作系の創作が多いが、布や糸を使った手芸の方があったかさがあって好きだ。

ただ無心になり、すべての精神を指先の動きだけに集中させる。手仕事をしている時には、余計なことを考えてはいけない。夕飯のおかずのことや、いつまでも片付かない段ボールのことがふと頭をよぎる。そのとたん、真っすぐできるはずのものが、歪んでひん曲がる。気の合わない人のことを想い浮かべてため息をついたりするのはもっとも良くない。もう作品がぐしゃぐしゃになる。

手仕事で作られるものは、心がそのまま映し出される。よいものを作りたい、素直なものを作りたいと思ったら、ただ使う人のことを想い、心をまっすぐにすることが大事なのだ。

『雲を紡ぐ』は、ホームスパンがつなぐ祖父・父親・娘の親子3代の物語。

山崎美緒は東京に住む高校二年生だが、いじめが原因でもう1か月以上も学校に行っていない。ある日、両親のもとを飛び出した美緒は、祖父が暮らす岩手県へとやってくる。祖父・は、盛岡市にある染織工房「山崎工藝社」の職人。「山崎工藝社」は手作業で羊毛から糸を紡ぎ、ホームスパンと呼ばれる布を織りあげている工房だ。美緒は祖父の家で暮らしながら、ホームスパンづくりの修行をすることに決める。

いじめが原因で不登校になった美緒だが、いつも人の顔色をうかがってばかり、嫌われないように作り笑顔をしてしまうような自分を少しづつ変えようとしている。自分の好きな色、自分の進む道を必死に見つけようとする美緒を、急かさずに見守る祖父の存在は大きい。

手仕事のまっすぐさは”祈り”に似ている、と思う。(わたしにとっては読書も祈りに似ている)美緒のまっすぐな祈りは、彼女自身だけでなく、バラバラになりかけていた家族をも再び紡ぐ。布や糸を使った手芸作品って、鋏でじょきっと切り落としてしまわなければ、何とでも手直しが効くのよね。

このところは、ゆっくりとした時間が取れず、集めたお気に入りの布地も引き出しの奥にしまったまま。この本を読んで久しぶりに、布地を取り出したくなった。

岩手県在住としては、盛岡市のおすすめスポットが余すことなく記されているこの本、ホームスパンについて知るだけでなく、盛岡のガイドブックとしてもおすすめしたい1冊。映画化も楽しみ。

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雲を紡ぐ
文藝春秋
伊吹 有喜 (著)

出版社 ‏ : ‎ 文藝春秋
発売日 ‏ : ‎ 2020/1/23
ハードカバー ‏ : ‎ 360ページ

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