今村夏子『むらさきのスカートの女』~第161回芥川賞受賞作

むらさきのスカートの女

第161回芥川賞受賞作、今村夏子の『むらさきのスカートの女』を紹介します。デビュー作から追いかけている作家さん。ぞわっとする感じを味わいたい人はぜひ手に取って読んでみて欲しいです。

あらすじ

近所に住む「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女のことが気になるわたし。むらさきのスカートの女と何とかして友だちになりたいわたしは、彼女が自分の職場で働けるように画策する。おかげで、むらさきのスカートの女と私は「職場の同僚」となる。日々、むらさきのスカートの女の観察に勤しむわたしだが、一向にむらさきのスカートの女と友だちになれる気配はない。それどころか、むらさきのスカートの女は職場になじんでゆくのだった…。
続きは、ぜひ本を読んでみてください。

レビュー

水玉のモノトーンの巨大なふくらみからのびる白い4本の脚。表紙のイラストがスカートを描いていることにすぐに気づいた読者はどれくらいいるだろう。いや、これはスカートなのか?頭からすっぽりとシーツを被らされているふたりにも見える。
『むらさきのスカートの女』は、今村夏子さんの4作目の中編小説であり、第161回芥川賞受賞作である。前2作品『あひる』『星の子』がいずれも芥川賞候補にあがり、芥川賞受賞作家としての安定感を感じる。
『こちらあみ子』『あひる』ら初期作品から一貫して、今村夏子さんの作品には、社会性の中にあるボーダーレスな平穏と不穏が描かれているが、この作品では不穏さがより鮮やかに描かれている。

むらさきのカーディガンの女は若くもない女で、短期の仕事を転々とし、ボロアパートに住んでいる。たまの休日も出かけず、近所の人たちにも変わった人として見られているような人である。

黄色いカーディガンの女(わたし)は、そんなむらさきのスカートの女を友だちになりたい、と考えている。しかし、黄色い女(主人公・わたしを以下「黄色い女」とする)のいう「友だち」は世間一般の「友だち」とは少しズレている。(最近の友だちの定義が分からないが少なくとも私が欲しい「友だち」と彼女の「友だち」は違うと言える)

黄色い女は冴えない毎日を送るむらさきのカーディガンの女に同情しつつ、自分ならふがいない彼女にとって頼れる存在になってあげられるのにと思っている。(それは決して「友だち」ではない)

今村夏子の作品でわたしが感じるのは、平穏と不穏のボーダレスである。私たちは社会の中でいくつものボーダーの中で暮らしている。住んでいる場所や年齢や職種のようなくっきりしたものから、感性や考え方など曖昧なものまで、いくつもの見えないボーダーは存在し、自分がそのボーダーの中やあるいは外にいることを意識している(時には無意識的に)。自分のことを「普通(スタンダード)」だと考えている多くの人は「自分は安全なボーダーの中にいる」と考えているが、そのボーダーを曖昧にさせる力が今村夏子の小説にはある。

むらさきの女と友だちになりたい黄色い女だが、彼女の奮闘もむなしく、黄色い女の思い描く「友だち」は結局最後までやってこない。
むらさきの女に相手にされないどころか、最後にはむらさきの女に捨てられてしまうのである。
むらさきの女の世界に黄色い女は存在しない。
黄色い女が見えている世界とむらさきの女が見えている世界は全く交錯しないのである。それなら黄色い女の見えている世界は、存在しないのか。いや、そうではない。事実、黄色い女がいなければむらさきの女のいまはない。
意図的に存在しているはずのつながりが、逆から見た時には存在しないものになる。

今村夏子の小説の怖いところは、それを客観的に見ているはずの読者に最後に突然くるっと投げ返されるような時だ。「おかしな女」である黄色い女とわたしには共通点などない。もちろん共感するポイントも全くない。だから、最後にむらさきの女が昨日何色の何を穿いていたのかどうしても思い出せない、というあの一文で心臓をぐっと掴まれたような苦しさと虚脱感に襲われる自分に驚く。本を読み進めるうちに、黄色い女の生き方に振り回されながら、自分でも気づかないうちにすこしづつ黄色い女に寄っていたのだ。読み始めた時には確かにあったはずの、私と黄色い女のボーダーをいつ超えてしまったのだろう…。

あるいは、はじめから私も黄色い女と同じボーダの中にいたのではないだろうか、という心許なさを味わうことになる。その感覚が、やみつきになるのだ。

本の紹介

【第161回 芥川賞受賞作】むらさきのスカートの女
朝日新聞出版
¥1,404(2020/10/06 21:54時点)

発売日 : 2019/6/7
単行本 : 160ページ
ISBN-10 : 4022516127
ISBN-13 : 978-4022516121

中学生・高校生にもおすすめ。芥川賞受賞作を読んでみたいという10代にもおすすめです。

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この本の担当者
ゆう

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