- アメリカ人と日本人の両親の養子となった少女・アイ
- 直木賞作家・西加奈子がアイデンティティを描く
- 2017本屋大賞第7位
存在しないはずの存在
「この世界にアイは存在しません」
ここでいうアイとは二乗してマイナス1になる虚数のこと。
しかし、中学の数学教師が放ったこのひとことは、アイにとって呪いの言葉となった。
ワイルド・曽田・アイ。
それがアイの名前だ。
アメリカ人の父と日本人の母を持つ。
しかし、アイはふたりとは血のつながりがない。
アイは養子だ。
1988年シリアで生まれたらしい。小学校卒業までをニューヨークのブルックリンハイツという高級住宅街で過ごし、父の仕事の関係で中学から日本へやってきた。
中学に入学するまでの経歴をまとめるだけでこれほどになる。
日本に生まれ、日本から飛び出したことのない私には、容易には想像もつかないが、しかし、私はアイに通じる。
内戦の激しいシリアに生まれ、どうしためぐりあわせなのか、アイはいまここにいる。なぜ選ばれたのが自分だったのか。
今いる場所が、確かに自分の居場所なのだと感じることができない。
自分がなにも知らずに何もしていないのに、ぬくぬくと恵まれた環境を享受していることに、アイは居心地の悪さを感じている。
恵まれていることに対して、幸せを感じることの後ろめたさ。
幸せだと感じられないことの後ろめたさ。
感受性の強すぎる少女は、自分の存在を疑い始める。
自分が「ここにいていい理由」は何なのか。
そのたびに何度も繰り返されるあの呪いの言葉。
「世界にアイは存在しません」
自分の存在が多くの亡くなった人たちの犠牲の上にあるのだと感じたアイは、世界中で起こる悲劇で亡くなった人たちの人数をノートに書き留めていく。
人の悲しみを自分のものにすることで少女は自分の存在を意義付けようとするのだが、自分の悲しみを乗り越えた時にはじめて、アイは生きることを手に入れ、自分の存在を認められるようになる。
痛みの中でこそ、人間は生きているこ喜びを感じることができるのだと言った『ギヴァー 記憶を注ぐ者』のメッセージが重なった。映画のように美しい景色が浮かぶラストシーンが、いつまでも私の中に残った。
受賞歴など
2017本屋大賞第7位
私立中学校国語入試問題に出典
【2018年】早稲田実業学校中等部
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出版社 : ポプラ社
発売日 : 2019/11/6
文庫 : 323ページ
ISBN-13 : 978ー4591164457
この本のレビュー

人間は自分を証明する”なにか”を必要としている。アイの心の揺れに引き込まれて一気読みでした。ラストシーンの鮮やかさが光ります。
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『サラバ!』を経て、見えてきた新たな世界――。又吉直樹 ×西 加奈子『i(アイ)』刊行記念対談【後編】|ダ・ヴィンチニュース
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茂木健一郎 公式ブログ – 書評。西加奈子著『i(アイ)』(ポプラ社)