李文烈『われらの歪んだ英雄』

われらの歪んだ英雄
  • 中学生からおすすめ韓国文学
  • いじめについて考える

あらすじ

ソウルから田舎の小学校に転校してきたハン・ビョンテ。クラスの級長であるオム・ソクテは、みんなより体も大きく運動も勉強もできる、クラスをうまくまとめ、クラスメイトはもちろん先生も一目置く存在。だれもが、彼に絶対的な信頼を寄せているかのように見えるが、そこは目にみえないがオム・ソクテに支配されている小さな世界だった。

子どもの世界って、大人から見ると「たかが小さな世界」で、世の中はそれ以外の世界の方が広いのだからと楽観的に考えられるのだけど、子どもにとってはそうではない。

いまいる世界が、自分の世界のすべてなのだ。

例えば、いじめを苦にしている子に、大人なら「学校に行かなければいいんだよ」って思うけれど、子どもは「自分はここで悩むしかないのだ」と考えているように、子どもには子どもの独特の世界があって、子どもたちは「自分はこの中でしか生きられない」と考えている。
そういう感覚がすごく絶妙に表現されている。

支配されているというとなんだか仰々しいが、力の面で、学力の面で、子どもなりの順位づけがある。そういうものに逆らえない感じを子どもたちは目に見えない支配下に置かれていると感じる。

また、オム・ソクテのやり方がずるいけど上手い(褒められることではないのだけど)。

例えば、自分はみんなの前で直接暴力を見せつけないけれど、手下が手を下す→オム・ソクテはそれをたしなめたりする。裏でオム・ソクテが糸を引いているのはわかっていても(手下が勝手に動いてるってこともあるけれど)、手なづけられてる方が得だなって気付かされる。それで、なんかみんな逆らえないし、傘下に入ってる方が楽だなぁとなるわけなのです。

この仕組み、まるで極道の世界みたい。いやぁ、こんなことを自然と身につけている小学生、オム・ソクテ、怖い。(実は2歳ほどサバを読んでいたらしい。なので余計に大きかったし力も強かったのね)

それに、ソウル育ちのシティー・ボーイ、ハン・ビョンテはどう立ち向かっていくのか。ハン・ビョンテの心の動き、それからふたりの関係が微妙に変わっていくところが、またよかったです。

映画化もされていて、なかなか好評のようですが、絶妙な心の動きを描いた文章をぜひ味わってほしい。久しぶりにいい文学作品を味わえました。

表題作ほか「あの年の冬」、「金翅鳥」を収録。
この2作は、描写も美しく秀作という感じなのでしょうが、人物設定や背景がいまいち読みづらくて、なかなかに読み進めづらかったです。「われらの歪んだ英雄」は2日ほどで読み終えたのに、他2作で1週間以上かかってしまった。そして、私にはよくわからないという……。

でも、ぜひチャレンジしてみて下さい。

著者・李文烈(イ・ムニョル)

ふと韓国文学を読んでみたいと思い立ち借りてきた1冊。

調べてみると、著者は韓国では圧倒的人気の超ベストセラー作家さんだそうで、この作品は「アジア文学最高峰」とヨーロッパで絶賛されているそう。アジアに住んでいるのに、恥ずかしながら、全く知らなかった。表紙をめくるとこう書かれている。

李文烈(イ・ムニョル)という名前は、韓国語で”文学への情熱”を意味するという。その名にふさわしく、彼の作品は稀に見るほど繊細で断固としている。    ― 一九九〇年九月二十八日フランス「ル・モンド」

日本の作家さんに例えると、村上春樹さんとか大江健三郎みたいな感じかしら?という勝手なイメージを抱く。

(大江健三郎1935年生まれ。李文烈1948年生まれ。村上春樹1949年生まれ。)

ブックデータ

われらの歪んだ英雄
情報センター出版局

単行本: 254ページ
出版社: 情報センター出版局
ISBN-13: 978-4795812222
発売日: 1992/2/26

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