- ひとりでは歩けなかった少女の闘いの物語
- 第二次世界大戦中のイギリスを舞台にした
- ニューベリー賞オナー(次点)作・読書感想文コンクール課題図書
物語の紹介
1939年、イギリスが第二次世界大戦に参加するかしないかというころ。闘いにもいろいろあるが、これはイギリスとドイツの闘いの物語ではない。自分の心の傷と向き合い葛藤しもがくひとりの少女の物語である。
エイダは、母さんと弟のジェイミーと部屋がひとつしかないロンドンのアパートに暮らしていた。暮らし向きはいいとは言えない。
あのころのエイダは自分の年齢も誕生日すら知らなかった。母さんはエイダに外に出ることも窓の外をのぞくことも禁じていた(一度だけこっそり外に出た時はすぐに見つかり血が出るほどぶたれた)。エイダは生まれつき足が悪く、ひとりで歩くことができない。母さんは足の悪いエイダのことを奇形だといい、外に出て誰かに見られるのが嫌なのだ。
足が悪いもの、母さんに嫌われるのも自分が悪いのだからそれは仕方がない。でも、アパートにひとりで取り残されるのは嫌だった。エイダは、こっそりとひとりで歩く練習をはじめた。
戦争が間もなく始まろうとしていた。エイダはなにも知らなかったが、ロンドンの子どもたちを爆撃から守るために、田舎に疎開させることになったのである。
ジェイミーが田舎に行ってしまう!(エイダは田舎がどんなものなのかも知らなかったが)
その日の朝、母さんは眠っているうちにエイダはジェイミーと一緒に家を出た。痛い足を引きずりながら・・・。
ここまでは、まだ物語の序章。
ここから、エイダのたたかいははじまる。
母の虐待から逃れ、自由であたたかい生活を送るエイダですが、彼女はいつもなにかに苛立ち、腹を立てては、素直になれず、息苦しさを味わう日々を送る。
こころに受けた傷はかんたんには癒さず、深いトラウマにより彼女は時にパニックに襲われることも。
母からの辛い態度で育ってきたエイダは、周りに優しくされるたびに耐えがたい感情に襲われてしまうのだった。
スミスさんがクリスマスプレゼントに手作りのベルベットのワンピースを作ってくれるシーンでは、エイダは自分のためのきれいな洋服を強く拒んでしまうのだった。
うそだ。そんなのうそだ。がまんできない。〈見苦しい役立たず!きたならしいゴミ!そんな見苦しい足の子は、だれだっていやがるよ!〉
(P251)
両手がふるえだす。役立たず。きたならしい。ゴミ。
マギーのお古だとか、お店で買った普通の服なら着てもいい。でもこれはだめだ。こんなきれいなワンピースはだめだ。子どもなんてほしくないと一日中文句を言われても、きいていられる。でも、きれんだなんて言われるのは耐えられない。
ふつうならうれしいはずの出来事も素直に受け止められず、自分ではどうにもできない感情に振り回され、苦しむエイダ。彼女が複雑な感情を抱えているのがわかる独白がある。
怒りがたまって恐ろしくなる。
(P266)
スーザンへの怒りー今だけの保護者だから。
母さんへの怒りー気にかけてくれないから。
フレッドへの怒りー奥さんの毛糸でわたしが編んだマフラーを、まるでそれが特別なものであるかのように毎日使っているから。
マギーへの怒りーわたしが『不思議の国のアリス』を気に入ったと話したら、『鏡の国のアリス』を貸してくれたから。まるで昨日の新聞を貸すように、自分の本を貸すなんて。まるでわたしがマギーと同じように、そこらへんにすわってかんたんに本を読めるかのように。
戦争への怒りーわたしたちを母さんから引き離したから。母さんが私たちを好きだと気づく前に。
自分への怒りー家を離れて大喜びしているから
この独白では、少女の抱えている孤独や不安や寂しさが胸に迫ります。そして、彼女がどんなに母親の愛情を求めているのか。
大きらい、大きらい、あぁ。頭の中でさえ、母さんのことが大きらいだなんて言えない。今でも言えない。私の足が治ったら、母さんも変わるかもしれない。わたしを好きになるかもしれない。もしかしたら。
(P275)
どんなにひどいことを言われても、母親の愛情を期待せずにいられない切なさ。エイダは苦しみから感情を解き放つことができるのでしょうか。
ブックデータ
単行本: 374ページ
出版社: 評論社
ISBN-13: 978-4566024540
発売日: 2017/8/10
受賞歴
ニューベリー賞オナー(次点)作
シュナイダー・ファミリーブック賞受賞
読書感想文課題図書
2018年第64回全国青少年読書感想文課題図書コンクールの課題図書【高等学校の部】です。「課題図書はおもしろくない」とよく言われますが、この物語はおすすめです。少しづつ読み進めるつもりでしたが、惹きこまれて3日で読了しました。
虐待と障がいもひとつのテーマになっています。興味のある方はぜひ読書感想文にも挑戦してみてください。高校生の課題図書ですが、中学生にもおすすめしたい!(ただし、課題の学年以外の本でのコンクール応募はできませんのでご注意くださいね)
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