長谷川夕『月の汀に啼く鵺は』

風土にのこる伝承や言い伝えといった話を聞くのが好きだ。不思議さは真実の輪郭を曖昧にさせるが、それゆえ、そこでくらし生きていた人たちの確かな息づかいを感じることがある。

伝承には、話さずにいられない語り手の思いと書き遺さずにいられない書き手の思いが残されている。

『月の汀に啼く鵺は』は、祖父の遺した伝承小説をめぐる不思議な物語。

本紹介

ここにある小説集は、山埜村の村民より聞いた恐ろしい話を、あらためて記録したものである。ただし、真偽のほどは定かでない

元教師で郷土史家だった祖父が亡くなった。

大学生の直江晶は弟の雫と、遺品整理のために祖父の家を訪れてた。

郷土史の研究をしていた祖父の家には、本や資料に埋め尽くされ、足の踏み場もない(本好きにはたまらない環境)

晶も雫も、祖父に会ったことはない。妻子ある男性の子を身籠った母に祖父は激怒し、和解することのないまま、ニ年前に母が亡くなった時にも祖父は葬儀に来なかった。晶はそんな祖父を許せず、遺産を全て処分するつもりでいる。

そこへ、不思議な出来事を抱えた人たちが祖父を頼りにやってくる。

ダムから出土した人骨、マンボウ、川で拾った簪(かんざし)、まれびとさん…。

弟の雫は、探し物を見つける不思議な能力(ダウジング)があり、解決のヒントとなる冊子を書斎から見つける。

祖父の遺作である小説『巷説山埜風土夜話』。

不思議な出来事に誘われるように、晶は祖父の物語を読み解いていく。直接会って話すことのなかった祖父と、本を通じてまるで対話するように物語は進む。祖父を知る人たちとの関わりや本を読むことで、祖父の人となりが見えてきて、祖父への頑なだった拒絶が少しずつとけていく。

続きを読みたいと思わせるラストもよい。

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怖い話というよりも不思議な話です、ホラー系ではありませんので、怖い話が苦手な人にもおすすめです。

【もくじ】

プロローグ/消えた墓標/夏の記憶/鬼の棲む家/まれびとさん/月の水際

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