本谷有希子【ぬるい毒】

芥川賞

「生きてるだけで、愛」から、本谷有希子さん2本立て読み。2作とも、三島由紀夫賞候補、芥川龍之介賞候補だそう。これまで未読でしたが、もしかして結構名前の知れた作家さんだったのね(^^ゞ

「自分を高める」という考え方は、もう思想ならぬ、死想なのだろうか。

内田樹さんの「下流志向──学ばない子どもたち、働かない若者たち」によると、相対の中で自分の位置を高めればいいという考えは、若い人を中心に当たり前となっているそうで、日本の大学生の学力低下の一因であるとも言えるらしい。いい大学に入るために必要なのは、勉強して学力をつけることではなく、受験生の中で上位に入ることだったりする。みんながガンガン勉強しちゃうと学力がどんどん上がってキツくなっちゃうが、まわりの学力が下がりつつある今、その中で合格圏内の学力さえ備えていればいい、という。その考えを正しいとすると、大事なのは自分の持っている力ではなく、ポジションでである、ということになる。つまり、人よりも上に位置することが重要となる。

そんな話がどうした、と現役大学生に噛みつかれそうだが、この小説の土台は、そこらへんにあると私は読んだ。向伊が(あるいは奥出や野村みたいな奴らが)、まさにここにどんぴしゃ。

この若さで―いや、その若さの中にいるからこそなのか―、このぬるい毒を書ききった彼女に、ただただ「すげぇなぁ」と思う。

向伊の人につけこみ、相手をみじめにし、人が落ちるのを楽しむ様は、読んでいて吐き気がするほどの嫌悪感でイラつき、とちゅう、何度も本を思いっきり壁にぶつけてやりたい衝動にかられる。読みながら、何度向伊の頭から水をぶっかけてやったことか。もちろん妄想ワールドの中で。

それとも、頭にきているのは、すべてわかったふりで、何も変えようとしない熊田さんにだろうか。
自分が本当は奴らの上なのだとかわかった風なことをいって、結局逃れるつもりもなく、いいなりなのだもの。

物語の終盤でもまだこんなことを言っている。
「あのとき、向伊が気まぐれにかけてきた電話にさえ出なければ、私がこんな恐ろしい思いをせずに済んだのだ」

あぁ~、イラっとする。そういうことじゃないだろう!!ここに至るまでの103ページ、どこもかしこも向伊を切るタイミングだらけなのに。

少なくとも、「言ってやらなきゃ気が済まない」タイプの私には、そう見える。と、いいつつ、気づくと誰かのペースに乗せられていて「まぁ、今日はいいか」なんて見逃してやってるつもりの私自信を熊田さんに重ねてイラついているのかもしれないけれど。

本谷さんの経歴もなかなか味がある。
1979年、石川県生まれ。高校卒業後、上京。2000年「劇団、本谷有希子」を旗揚げし、主宰として作・演出を手掛ける。07年に鶴屋南北戯曲賞を最年少受賞。09年には岸田國士戯曲賞を受賞。←失礼ながら、このへんの賞のすごさが私にはわからないのですが。

久しぶりにガツンとくる小説を味わったな、という感じで、おなかいっぱい。

とはいえ、だれでも楽しめるおすすめ小説ではないなぁ。
美味い小説が味わえるなら、火傷してもかまわないって方は、ぜひどうぞ。

おすすめポイント

BOOKS雨だれ 高校生から

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