ワルデマール・アベグ『100年前の世界一周』

ワルデマールが気に入った日本のくらし

1905年、ひとりのドイツ人青年が世界をめぐる旅に出た。大西洋を渡りアメリカへ、太平洋から日本へ、朝鮮、中国、シンガポール、インド、そしてヨーロッパへ。およそ1年半の旅となった。10代からカメラを趣味にしていたワルデマールは、訪れた先で目に映る風景を次々と写真におさめていった。フィルムには、いったいどんな世界が焼き付けられていたのだろうか。

この本は、同じ時代の異なる国々をひとりの視点から記録された、貴重な写真集である。

100年前、異国は未知なる地だった。訪れたどの国も個性的で魅力的に映っただろう。特に日本について、旅の中で最も深い印象を与えた国として紹介されている。ワルデマールが来日したのは、明治時代の最盛期。ヨーロッパでもジャポジズムが流行していたころ。日本の芸術に触れたり、芸者たちとの交流など優雅な日本を堪能する一方、一般の人々の簡素なくらしを気に入ったという。ワルデマールのカメラには、当時の人々の生き生きとした表情がいくつもおさめられている。

100年前にタイムスリップしたような新鮮さを堪能してください。

帰国後のワルデマール

ワルデマールは、帰国後オルペンで政府の仕事に就くが、第二次世界大戦後、ドイツ国籍を放棄し、スイスに移動する。ワルデマールが旅の回顧録を書き始めたのは、八〇歳を過ぎてから。世界旅行から実に50年もの歳月が流れていた。その間、平和の均衡はやぶれ、美しき世界は戦争の果てに失われてしまった。ワルデマールにとって、世界旅行の記録をふりかえることは、平和について見つめ直し、平和を祈る行為だったのかもしれない。

この本では、ワルデマールの回顧録と写真にボリス・マルタンが解説を加えている。ワルデマールの文章を味わい解説をじっくり読むのもよし、ぱらぱらと写真を眺めているだけでも楽しい。

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一〇〇年前の世界一周
日経ナショナルジオグラフィック社

出版社 : 日経ナショナルジオグラフィック社
発売日 : 2009/11/26
単行本 : 238ページ
ISBN-13 : 978ー4863130852

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