佐藤多佳子『夏から夏へ』~バトンをつないだ日本代表チームのメダルへの挑戦

佐藤多佳子『夏から夏へ』
  • 中学生・高校生におすすめスポーツノンフィクション
  • 陸上競技・スポーツが好きな人に

リレー日本代表ドキュメント

テグ世界陸上が終わった。連日テレビに釘付けで、叫んだり感動したりしてたあの熱が、もう後ろに引いていく。風が涼しくなっていることに気づき、もう秋なのだと寂しくなる。

テグ世界陸上と並行して、佐藤多佳子さんの「夏から夏へ」を読んだ。

テグからさかのぼること4年前、2007年の大阪世界陸上では、国民の期待というプレッシャーが大きすぎたのか、日本人選手たちはなかなか結果を出せず、苦戦を強いられていた。迎えた最終日、男子4×100Mリレー(4継と書いてヨンケイと呼ばれます)は、過酷な条件の中でみごとに決勝進出し5位入賞、アジア記録を更新した(なんと前日の準決勝に続き、2日連続での記録更新)。日本陸上の歴史に残る瞬間だった。

長い歴史が物語るように、日本人選手がトラック競技で決勝に残るのは簡単ではない。なぜ、彼らは偉業を成し遂げることができたのか?世界のレースで戦える彼らの強さの秘密とは?

「一瞬の風になれ」の著者・佐藤多佳子が、取材・執筆した大阪陸上でのリレー選手を追ったドキュメント。高校陸上小説の延長のようにこのドキュメントに惹きこまれ、一気に読み終えた。

メンバーひとりひとりのこれまでの競技人生や、恩師たちのエピソードなどもたくさん盛り込まれ、読み応えずっしり。著者は4名の選手だけでなく、リザーブ(補欠メンバー)の小島茂夫さんにも話を聞いている。私が一番心に響いたのは、小島さんの話だ。選手として走ることができるのは、トップの4人だけ。どんなに調子が良くても、どんなに頑張っていても、結果はタイムで決まる。トップで走れなくても、自分のコンディションを最高に持っていくアスリートとしてのプロ根性。スポーツの世界では当たり前のことなのかもしれないが。短いエピソードだが、ぐっときた。

陸上競技は、個人種目が多く、「自分との戦い」が色濃いが、その中でも、リレー競技はチームプレーなのだとあたらめて感じた。「自分の役割をきっちりこなすだけ」という言葉に、自分への厳しさとチームへの信頼の強さを感じる。

このままドキュメント番組になりそうな読みやすさ。短距離を走り継ぐリレーのように、ひとつのエピソードを追いかけて読み続けているうちに、あっという間に読み終えた。スポーツ小説を読み切ったあとのような熱と爽やかさが残る。

ブックデータ

第55回(2009年)全国青少年読書感想文課題図書高等学校の部

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