佐藤いつ子『キャプテンマークと銭湯と』~ゆずれないプライドと心をいやしてくれる居場所

佐藤いつ子「キャプテンマークと銭湯と」POP

あきらめるなんて、とんでもない。
自分の中のてっぺんを目指すんだよ。

スポンサーリンク

本の紹介

加賀谷周斗(かがやしゅうと)は中学生二年生。部活ではなく、サッカーのクラブチームに所属し、これまでU-13のキャプテンをつとめている。小学生のころに所属していたサッカーチーム「みなみキッカーズ」の時から、周斗はキャプテンマークを人にゆずったことはない。サッカーは周斗にとってプライドだ。

ところが、学年があがりU-14チームに変わるタイミングで、コーチは新しいキャプテンを決めた。

「キャプテンは、」
耳の奥がきんとした。
「大地にお願いしたい」
背筋は伸びきったまま、制止した。息も止まった。周りがかすかにざわついた。
そのざわつきを押さえるように、
「はい!」 威勢のよい声が、後ろからまっすぐ飛んできた。
「よし。大地、頼んだぞ」

大地は、一ヶ月前に強豪のクラブチームから移ってきたばかりだった。

大地にキャプテンマークを渡した日、周斗はまっすぐ家に帰る気になれず、いつもとは違う道へ向かった。かつて、周斗の祖父母が暮らしていた町。祖父母と過ごした幼いころを懐かしく思い返しながら歩いていると、懐かしいような古い銭湯「楽々湯」にたどり着く。

キャプテンマークは周斗にとって大事なプライドだった。それを手放したことで、周斗は自信を失いかけていく。それだけでなく、うまくいかないイライラをチームメイトにぶつけてしまう。仲間に謝ることもだれかに相談することもできずに、チームからも孤立し、大事なサッカーへの情熱を失いかける。

「楽々湯」は、サッカーという行き場を失いかけた周斗の新しい「居場所」となり、あたたかく見守ってくれる心の癒しの場にもなる。サッカーとの距離ができたことは、一時的に周斗を落ち込ませるが、サッカーへの思い、そしてチームメイトや友だちとの関係性を見つめ直すよいきっかけにもなる。

子どもたちを見ていると、学校の勉強、部活、塾と、毎日とても忙しい。
大事なのは緩急である。緊張の場面ばかりでは、いつか糸が切れる。体と心を緩めてやる場面は必要だ。休息がゲームという子も少なくないだろうが、ゲームが睡眠のように脳と体の疲労を軽減させるとは言えない。

この小説では、日頃サッカーを一生懸命に頑張っている中学生がもやもやを抱えつつ銭湯にたどり着く。銭湯は大きなお風呂。お風呂で体と心をあたためて、人と触れ合い心を開く。

周斗か歩き回った古い街並みや商店街もだんだん姿を消しつつあり、ふらふらと歩き回ってたどり着ける銭湯は少なくなった。物語に登場する「楽々湯」も地域に愛されながらも後継者問題を抱え、存続が難しい現状がある。人びとがふれあい、心癒される場所を守っていくことの大切さも心に留めたい。

本をチェックする

小学校高学年から中学生、朝読書におすすめです。

タイトル:キャプテンマークと銭湯と
著者:佐藤 いつ子 イラスト: 佐藤 真紀子
出版社 ‏ : ‎ KADOKAWA
発売日 ‏ : ‎ 2019/3/14
単行本 ‏ : ‎ 248ページ

この本もおすすめです

駅伝ランナー (角川文庫)
KADOKAWA
佐藤 いつ子 (著)

バッテリー (角川文庫)
KADOKAWA
あさの あつこ (著), 佐藤 真紀子 (イラスト)