打海 文三『裸者と裸者 孤児部隊の世界永久戦争<応仁クロニクル>』

  • 少年少女を主人公としたディストピア小説
  • ラノベが好きな人に
  • 暴力的表現あり。苦手な方にはおすすめしません。

あらすじ

金融システムの崩壊により経済恐慌に陥った近未来の日本。かつて裕福で平和だった国は、財政破綻により内乱が勃発、国軍は政府軍と反乱軍に二分した。

どこも外国人労働者と社会的弱者であふれかえり、安全で安心な場所はもうどこにもなかった。内乱で両親を失った海人(6歳)は、たったひとりで幼い妹と弟を守らなければならなかった。手段は選んでいられない。

表紙のイラスト×角川文庫、ライトノベルかと思わるがそうではない。
これは本格戦争小説だ。
「日本でこんなことはありえない」なんて楽観的には読めない。ここに描かれているのは、今も世界のどこかで実際に起きている戦争のありのままの姿だから。戦争は、いまやビジネスのひとつとして、どこでも行われうる危険性と背中合わせの位置にある。

虐待・殺人・レイプ、目を覆いたくなる惨状が当たり前に行われる。ドラックの売買と同じくお金になる戦争は一度始まったら簡単には終われない。
そんな惨状の中、ただ家族を守りたいという純粋な思いで生き抜こうとする海人の姿が希望になる。

(上)では、孤児の海人が常盤軍の孤児隊の一員から上官に出世するまでが描かれて、
(下)では、語り手が月田姉妹(上で海人に助けられる)にかわり、民間の女の子たちによる武力隊パンプキン・ガールズ(ドラック売って稼いだり要はマフィアなんだけど)の暴れっぷりを中心に話が進む。

どのように戦争が行われ、なぜ戦争はなくならないのかが見えてくる。
海人も月田姉妹も、この世の中が狂っていることを知っていて、この社会を拒絶している。矛盾した気持ちを心の奥に抱えてながらも、生きていくためにはそこに自分を適応させるしかない。悲しいとか苦しいとかそんな葛藤にとらわれている暇はない。戦争はリアルだ。

(下巻 P294)
「世界はとっくに発狂してる」姉妹は言った。
「うん、発狂してる」イズールが言った。
「生きのびようとすれば、この狂った世界に適応するしかない」
「そうだね」
「邪悪な許しがたい異端の」
「なに?」
「邪悪な許しがたい異端の」姉妹はくり返した。
「それがあたしたちの適応のかたちだ」

一方で、この子たちのセリフが時に、現代の子どもたちの声に聞こえる。適応しても狂っていく。適応できなくても同じだ。間違っているとわかっていても世界や大人を受け入れようとする純粋さに、大人の私たちは何をしてやれてるんだろう。

初めての打海さんの小説。ミステリー作家さんかと思っていたのだけど違いました。上巻は一気読み、下巻は2日で読了。この分厚さを3日で読み切るほどに引き込まれる文章力とスピード感のある展開。期待以上のパンチのある作品でした。

本をチェックする

戦争小説なので、無差別に人を傷つけるシーンやきわどいシーンもたくさん出てきます。苦手な人にはおすすめできません。漫画も刊行されています。

応仁クロニクルシリーズ


応仁クロニクルシリーズは第3弾までのシリーズ作品。『覇者と覇者』は完結編になりますが、著者が完成を前に急逝されたため、そこまでとなっています。ほぼ完成しているので、最後まで楽しめます。

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