女の子は永遠じゃない~アレックス・シアラー『13ヵ月と13週と13日と満月の夜』

どんなものも、永遠にそのまま変わらないものはない。時間がたてば樹木は朽ちるし、鉄もさびる、人間だって何もしなくても年をとるし、チョコレートだって賞味期限が切れる。たいていの場合は、時間とともに変化は緩やかに訪れるが、時折、時間を飛び越えて大きな変化が突然やってくることがある。宝くじに当たって大金を手にするようなうれしい出来事なら大歓迎だが、人生にはなにかを失う場面も少なくない。やっかいなのは、それを自分が持っていることに気づいてなかった時。失ってから自分が持っているものの価値に気づくのはよくあること。もし、あなたがそれを取り戻したいなら、あきらめなければ可能性はある。大事なのは、自分を見失わないこと。『13ヵ月と13週と13日と満月の夜』のカーリーのように。

カーリーとメレディス

カーリー・テイラーは、赤毛とすばかすだらけの12歳の女の子。ひとりっこでおしゃべりが大好きなカーリーは、親友みたいな女きょうだいがいたらいいのに、とたまに思う。

新学期のはじまる9月のこと、カーリーのクラスにひとりの女の子が転校してくる。彼女の名前はメレディス。メレディスは海の事故で両親をなくし、いまはおばあちゃんとふたりぐらし。まわりの子とどこか違う落ち着いた雰囲気をもつメレディスと親友になりたいカーリーだが、メレディスはカーリーに対してもそっけない態度。
メレディスには親友なんて必要ない。彼女には、ある恐ろしい秘密があった。秘密を知ってしまったカーリーは、彼女を救うためにある計画を実行することに…。

あぁ、もうこれ以上は言えない。ミステリーのネタバレを先に読む人はいないと思うけれど、この本に関してもあらすじやレビューはこれ以上詮索せずに読んで。その方が断然おもしろいから。

ハラハラドキドキの展開!いい意味で裏切られて、どんでん返しのストーリーに最後まで惹きこまれるます!

260,000部突破の読者モニターの支持率94%のベストセラー小説

子ども向けの本で、「おもしろい」とおすすめしてこない本はない。特に翻訳本は、その道のプロがおもしろいと判断したからこそ、書籍になって出版されているわけだし。だから、「この本おもしろいです」と帯やカバーに書かれていても、希望以上の期待を抱いてはいけない。けれども、この本の「おもしろい」は本物。

この本の裏表紙のカバーにはこんな風に書いてある。

「読者モニターの支持率94%!
読み出したら止まらない、ノンストップ・ストーリー!」


読者モニターの94%が満足したと回答!なんて、通信販売の広告みたいだけど、読み終えてこれが納得と思える。200人の読者モニターを対象にしたアンケートで、94%が「おもしろい!」回答している。読者の年齢層についての記載はないが、レビューの年齢層は10代から40代までと幅広い。この本のジャンルは児童文学に分類されるだろうが、どの年齢層が読んでも自分を重ねてカーリーに共感しながら読めるはず。女の子を主人公にした物語だが、これまでに高学年の男の子からも「すごくおもしろかった」と感想をもらったことがある。男女も年齢も問わず楽しめる作品であることは間違いない。

アレックス・シアラーと金原瑞人

老いも若きもガールズパワー全開のこのストーリーを書き上げたのがアレックス・シアラー。プロフィールによると1949年生まれで「見かけはもうオジサンなのに、子どもの気持ちがよくわかる、とてもピュアな心をもったイギリスの作家」である。主な作品に『青空のむこう』や『チョコレート・アンダーグラウンド』がある。

この人気の児童文学作家がある日、電車に乗った。電車内は携帯電話の使用は禁止されている。向かいの席には、ひっきりなしに携帯電話の応対をしている女の子が座っている。彼は、女の子にやんわりと注意をした。機嫌を損ねた女の子が、彼に向かって捨て台詞を吐いた。
「ダサいじじい」
このひとことこそ、女の子を主人公にした物語のアイデアのきかっけになった、とアレックス・シアラーはあとがきで語っている。

さらに、この物語をポップにしてくれているのが金原瑞人さんの翻訳。まず、金原さんの翻訳する児童・YA文学に私は絶対的な信頼を置いている。金原さんの選ぶ物語がもつ人を惹きこむストーリーと物語の世界にすんなりと導いてくれる文章。金原さんの翻訳本はおもしろい!アレックス・シアラーとは『青空の向こう』でもタッグを組んでいるが、『13ヵ月と13週と13日と満月の夜』ではカーリー、メレディス、そのほかの登場人物たちの個性が会話の中によく表れている。登場人物たちのキャラクターがいかに魅力的にみえるか、それって翻訳の力が大きいんじゃないかって思う。

この物語のテーマのひとつは、「人は見かけでは判断できない」ということ。女の子以上に女の子の気持ちをぴたりと言い当てるおじさんたちのパワーと柔軟さに敬服したい。これもまた、ひとつのミラクルファンタジーかもしれない。クリスマスのような奇跡がおこる満月の夜をカーリーたちと感じてみて。

本をチェックする

出版社 : 求龍堂
発売日 : 2003/5/1
単行本 : 395ページ
ISBN-13 : 978ー4763003072

*もくじ*
1.最初からは話さない/2.メレディス/3.内輪話/4.空を飛ぶ/5.わな/6.マーマレードとジャム/7.カーリー/8.メレディスの説明/9.呪文/10.眠り/11.目覚め/12.置き去り/13.家へ/14.そして、老人ホームへ/15.メリーサイド老人ホーム/16.本物のメレディス/17.雲なく澄みわたること/18.柵を超えて/19.それから/20.もどって

続けて読みたいおすすめの本