ケイシー・マクイストン『赤と白とロイヤルブルー』

『赤と白とロイヤルブルー表紙』

疲れた時はラブコメ映画が観たい。ゾンビとかイカ出てくるゲームにドキッとかヒヤッとかするやつじゃなくて。胸がキュンキュンして心臓に新鮮なときめきを注入してくれそうなやつ。今年の年度末は多忙すぎて脳内回線がショートしちゃって、ついにロマンス小説にまで手を出してしまった。男性同士の恋愛ロマンス小説とは、これまでのあまりなじみのないジャンルだが、読み始めるとふたりの行方が気になってしまい、文庫本672ページを数日で一気読み。この作品が全米図書館協会が選ぶ12歳から18歳までのヤングアダルトに特に薦めたい大人向けの本10冊であるアレックス賞作品と聞いて、思わずうんうんとうなづく。同性同士の恋愛で一番苦しいのは、社会に認められる難しさなのだと思う。『赤と白とロイヤルブルー』は、セレブの恋愛をコミカルに描きながら、ふたりが葛藤し決断する姿をまっすぐに描く成長物語でもある。

本の紹介

アレックスはアメリカ初の女性大統領エレン・クレアモント=ディアスの長男。母と姉のジェーンとともにホワイトハウスに暮らし、ジェーン、アレックスはアメリカ副大統領の孫ノーラとともに”ホワトハウス三人組”として陰ながら政権を支えている。三人は英国のフィリップ王子のロイヤルウエディングに招かれるが、アレックスはどうも気乗りしない。問題は、フィリップの弟ヘンリー王子だ。冷淡でアレックスのことなど気にも留めていないような態度のヘンリーのことがアレックスは苦手なのだ。

ロイヤルウエディングの晩餐会の席で、事件は起こった。ヘンリー王子の冷ややかな態度が気に食わず、アレックスはヘンリーについちょっかいをかけてしまう。アレックスが思わずヘンリーの肩に手を掛けてしまうと、ふたりはバランスを崩して、そのままウエディングケーキへダイブしてしまう。

「口論の末の大喧嘩」「第二次米英大戦争の火種か」とマスコミに報じられ、世間は大騒ぎ。エレンの二期目再選を控えているホワイトハウスとイギリス王室が立てた苦肉の策は「実はふたりはすっごい仲良しなんです」作戦。お互いのデータを叩き込み、アメリカーイギリス間を行ったり来たりして、ふたりは仲のよさを世間にアピールする。

ヘンリー王子とて、ひとりの人間だもの。いつも鉄仮面をかぶっているわけじゃない。自分の立場を知り、英国のため伝統を守るために望まれる王子像を遂行しているのだ。一緒に過ごす時間が増えるにつれて、アレックスはヘンリーの人間らしい一面に触れ、王子の孤独を知る。アレックスは少しづつヘンリーのことが気になり始めるのだが、ふたりの仲は思わぬ方向へと走り出す。

「いけ好かない相手にいつの間にか惹かれちゃう王道パターンね」なんてクールに分析しつつも、大統領のご子息とイギリス王子の恋愛ですもの、自然と鼻息が荒くなるに決まっている。悪態を交えながら愛を語り合うふたりのやり取りにノックアウトされるよね。ふたりが送り合うメールには、偉大な先人たちの残した愛の名言が添えられているのだけど、それがまた最高にロマンチック。

男性同士の恋愛小説として最高にロマンチックなのは間違いないが、私がこの小説を強くおすすめするポイントは、ふたりの若者が自分らしくあるために闘う成長物語でもあるから。

「ふたりでなんとかするんだ。なんとかやっていけるようにするんだよ。きみとぼく、歴史を味方につけてね。ぼくたちは闘おうとしている。なぜならきみが懸かっているからね。~(中略)~ だから約束する。いつの日かぼくたちは、ありのままでいられるようになる。ほかのやつらかんかくそっくらえだ」

人目を憚ることなく自分らしくあることは、決して簡単なことではない。それまで知らなかった自分自身に気付いたアレックスの戸惑い、自分の思いを社会へ伝えることのできないふたりの苦しみはもちろんだが、こうした大スキャンダルに、わたしたち”社会”はどうした対応ができるのか、考えるきっかけにもなるはず。
ふたりがどのように自分の問題を克服し、あるべき自分の姿を手に入れていくのかぜひお読みいただきたい。ひとつ言えるのは、やはり愛の力は偉大だということかな。

受賞歴など

2020年アレックス賞受賞

2019年グッドリーダーズベストロマンス賞

本をチェックする

赤と白とロイヤルブルー (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
二見書房
ケイシー・マクイストン (著), 加藤 木麻莉 (イラスト), 林 啓恵 (翻訳)

出版社 ‏ : ‎ 二見書房
発売日 ‏ : ‎ 2021/1/21
文庫 ‏ : ‎ 672ページ

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