渡辺俊美『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』

「あぁ、楽しかった夏休みも終わってしまったぁ~」と嘆いているのはなにも子どもたちだけではない。またお弁当作りの日々が始まるのかと、幽鬱になりそうな母たちもいる。

春から息子の弁当が加わり、毎日4個のお弁当作りからしばしの解放感を味わいつつある私もそのひとり。家では好き嫌いが多い息子だが小学校の給食はとにかく大好きだった。

それはもう自ら給食委員長に立候補するほどに。

ウチのご飯も給食みたいだったらいいのに、と母に直訴しちゃうほどに。(えぇ、料理に限らず家事全般は私の得意としないところ。補うだけの愛情だけでも十分にため込んでおきたいところだけど)

そんな息子の大好きな給食が私の弁当に変わることでのプレッシャーは実は大きかった。給食の定番「汁」は、弁当には使えないし。弁当を作っている途中でふらりと台所をのぞきにくる息子は、まるでサボりを監視しに来た工場長のよう。お弁当をちらりとのぞいて立ち去るうしろ姿に「工場長、今日の出来は合格でしょうか?」と声を掛けたい衝動を抑えて、からっぽになったお弁当箱を見ては小さくガッツポーズをする日々。

一喜一憂のお弁当愛憎劇はやりがいもある半面、気合で疲れちゃうのも正直なところ。(気合が入っているだけの豪華さも質量もないのだが)

弁当休暇中に手にしたのが『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』

著者は福島県出身のミュージシャン。TOKYO No.1 SOUL SETの他、さまざまな音楽活動をしています。私は「猪苗代湖ズ」のメンバーでピンときたくらい著者については知らなかったのだけど、お弁当のセンスの良さはなるほどアーティストである。

本著は、高校生の息子さんと二人暮らしの著者が3年間作りつづけたお弁当の記録であり、食のエッセイであり、親子の絆物語であり。高校入学が決まった時、渡辺氏の「お金を渡すから自分で好きなものを買うか。それともパパがお弁当を作るか。どっちがいいの?」という問いかけに、「おいしいからパパの弁当がいい」と素直に答える息子君とのいい関係に、お弁当写真を見る前の「はじめに」ですでにぐっときちゃう。

「続けるためのコツは力を入れすぎないこと」とか「好きなものなら毎日入れてもOK」とか、上手に肩の力を抜いて美味しいと言ってもらえるお弁当づくりのコツも共感できるものばかり。渡辺氏のお弁当写真もよく見ると同じメニューが揃っているのに、そう気付かせず、どれも「美味しそう~」と見せるテクニックはぜひ真似したいポイント。微笑ましい弁当エピソードや、息子さんの感謝のメッセージに涙したり、親父と息子のいい関係にも心掴まれる1冊です。いま、わっぱのお弁当箱に心動かされてます。

ブックデータ

単行本(ソフトカバー): 184ページ
出版社: マガジンハウス
ISBN-13: 978-4838726530
発売日: 2014/4/30

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