感情は人生を豊かにするスパイスだ。うれしさやかなしさの感情を伝えることで、私たちはだれかと思いを共有し、寄り添い合うことができる。感情を表現することにネガティブになりがちな人におすすめしたいのが、この本。
本の紹介
かつて大量殺人を犯したとされる人型警備ユニットの“弊機”は、その記憶を消され、いまは所有者である保険会社(弊社)の業務を行なっている。
記憶を抹消される瞬間、自らの行動を縛る統制モジュールをハッキングすることに成功して、意思の自由を得た。警備ユニットは人間を守るようプログラムされているため、プログラムに沿った行動を取るわけなのだが、実は彼女の行動は自分の意思に基づいている。
この時、偶然にも連続ドラマのデータに接続が可能となり、自由にドラマをダウンロードしては視聴することを密やかな楽しみとしている。
ある惑星資源調査隊の警備任務に派遣された弊機は、ミッションに襲いかかる様々な危険に対し、プログラムと契約に従って顧客を必死に守ろうとする。調査隊を危機から救った弊機は、警備会社の契約から解かれることになる。意思を持ち、自由を手に入れた弊機は、自分が犯した事件についての調査をはじめるというストーリー。
そもそも”弊機”には感情がある。もちろん”弊機”はそれを周りに悟られないように気を付けている。感情があることを知られるなんて気まずすぎるから。
自由意志を表に出さず、まるで感情がないかのように契約上の業務を日々淡々と遂行し、仕事から解放されたらNetflixでお気に入りのドラマを好きなだけ見て癒される。
その姿は、まるで人間と一緒。
自分が何者なのかを知りたくて、自分を探す旅に出たりする点までぴったり。
うちらもう、完全にマーダーボットじゃん。(ただしめちゃ弱い)
「冷徹な殺人機械のはずなのに、弊機はひどい欠陥品です。」
弊機は感情を持つ自分を機械としての欠陥品だと語る。
プログラミング通りに任務を遂行し、ミスを犯さないことが優秀な機械の定義だとしたら、突き動かされる感情に従い自分の意思で行動する弊機は機械としては失敗作なのかもしれないが、物語が進むにつれて少しづつ感情を表出させ。自分の感情と向き合う弊機の姿に、気づくとこちらも感情を動かされている。
SFらしいエキサイティングな戦闘シーンも充実している。後半、あのメンバーたちと再開するのだが、絶体絶命みたいなピンチをうまく切り抜けられるのか!!
そんでもって最後はどう終わるのこれ?
「この物語が終わる時、に弊機はどんな表情を見せるのだろう」なんて、読み初めには想像もしなかった感情が芽生えている。期待しているように物語が終わって欲しい、なんてことをSFに期待してはいけないと思いつつ、この物語が終わる時、弊機のそばにだれかいてくれるといい、と祈らずにいられない。
ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞の3冠受賞達成!
これは、もう読まない理由はない。
受賞歴など
第7回日本翻訳大賞受賞!
all system red(システムの危殆)が、ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞・アレックス賞受賞artificial conditino(人工的なあり方)が、ヒューゴー賞・ネビュラ賞受賞、ローカス賞最終候補
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上下巻セットです。上下巻ともに表紙は弊機。同一人物に見えないのは、物語を読めば理由がわかります。上巻の表紙で、弊機をずっと男の子だと思って読み進めていたのはわたしです。
出版社 : 東京創元社
発売日 : 2019/12/11
文庫 : (上巻)303ページ、(下巻)343ページ
続編「ネットワークエフェクト」「逃亡テレメトリー」も刊行。めちゃくちゃ人気ですね。アニメ化したらおもしろいんじゃないかな、大歓迎。