ロバート・ハインライン「夏への扉」

ロバート・A・ハインライン「夏への扉」表紙:不朽のSF名作、タイムトラベル小説の金字塔

自分の好きなことをよく知っているつもりだ。こんな風に生きたいという、ぼんやりとしたビジョンはある。だが、10年後あるいは20年後に、夢の実現した未来が見えるかと問われたら、イエスとは答えられない。曖昧な未来が見えるだけだ。

手に入れたい未来があるなら、まずやるべきことは、明確なビジョンを持つことだ。ピートに倣うならば「夏への扉」は必ずあると信じることだ。

本の紹介

ダンは一流の技術者だが、人を見る目はないらしい。1970年、親友と恋人にこっぴどく裏切られ、失意のどん底に落とされたダンは、コールドスリープ(冷凍睡眠)で長い眠りにつくことを決意する。

30年間の眠りのあとで、ダンを待っていたのは、彼の発明したフランクの子孫!
より技術が進化した素晴らしき2000年!
しかし、眠りにつく前に期待していたような安らぎはそこにはなかった。ダンは、失った大切なものを取り戻すことを決意する。これは、時間を超えたSFエンターテイメント。

まず言いたいのは、時間が深い哀しみを癒すとしても、コールド・スリープ(長期低体温法睡眠)を逃避行の手段にするのは、間違っている。過去に絶望だけを置いてくることはできないのだ。

だからといって、これは抗えない絶望の物語ではない。未来への希望の物語だ。

未来を知ることができれば、間違いのない選択ができる。
はじめからレースの結果を知っていれば、当たり馬券を買うことができるように。

2020年を過ぎたいまも、コールド・スリープやタイムスリップは、まだまだ未来の技術だが、ダンのように直接未来を目にすることはできなくても、私たちには未来をイメージする力はある。

まるで実際に見てきたように、叶えたい未来を思い描くことができたら、そのために何をすべきか見えてくるはず。あとは、ひとつづつ問題を解決していくだけ。物語の中で、ダンがそうしたように。一歩一歩を確かなものにできれば、思い描いた未来は必ず実現できるのだと、物語の中でダンが証明している。自分にとって大事なものを見失わないことが、大事だ。

夏への扉はきっとある。
扉にあてた手のひらに、じんじんと熱が伝わる。隙間から流れるむんとした匂い、セミの声。その向こうに確かな夏を思い描くことができれば、扉の向こうはきっと夏だ。

最後にひとこと。
アラジン自動機械工業株式会社様、おそうじガールの一刻も早い実現化を待っています!

本をチェックする

・世界中にファンをもつ、人気の高い名作SF小説
・アメリカのSF作家ロバート・A・ハインラインが1956年に発表した初期のタイムトラベル小説
・人気映画『バック・トゥ・ザー・フューチャー』をはじめ、多くのタイムトラベル作品が影響を受けている

イメージしていたような難しさはなく、すんなりとストーリーに入り込んだ。SFはあまり読まないという人にもおすすめ。70年も前に書かれた作品とは思えないほど、読みやすいのは翻訳者のおかげでもあるはず。
だれにも等しく与えられる時間の概念そして愛、希望、人生における普遍的なテーマは、時代を超えて愛される理由だとわかる。

夏への扉 新版 (ハヤカワ文庫SF)
早川書房
ロバート・A・ハインライン (著), まめふく (イラスト), 福島 正実 (翻訳)

出版社 ‏ : ‎ 早川書房; 新版
発売日 ‏ : ‎ 2020/12/3
文庫 ‏ : ‎ 416ページ

「BOOK」データベースより
ぼくの飼い猫のピートは、冬になるときまって「夏への扉」を探しはじめる。家にあるドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ。そして1970年12月、ぼくもまた「夏への扉」を探していた。親友と恋人に裏切られ、技術者の命である発明までだましとられてしまったからだ。さらに、冷凍睡眠で30年後の2000年へと送りこまれたぼくは、失ったものを取り戻すことができるのか──新版でおくる、永遠の名作。

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