丘修三『ぼくのお姉さん』

丘修三『ぼくのお姉さん』

丘修三・作
かみやしん・絵
単行本: 186ページ
出版社: 偕成社
発売日: 2002/9/1

ここがポイント
  • おすすめ:小学校中学年から高校生まで10代に
  • 障がいのある人と社会を鋭く描く児童文学
  • 坪田譲治文学賞ほか多数の児童文学賞を受賞した時代を超えて子どもたちに読んで欲しい名作

本の紹介(あらすじ)

正一のお姉ちゃんのひろはダウン症である。ひらがなも読めないし、計算もまるでダメ。お金の使い方もわからない。17歳になったお姉ちゃんは、春から福祉作業所で働きはじめた。ある日、朝から落ち着かない様子のひろが、帰るなり、みんなにレストランへ行こうという。お姉ちゃんには、ある計画があったのだ…。(ぼくの姉さん)

ぼくとしげると一郎の3人は、学校からの帰り道にぶっかこうに歩く子どもと出会う。体を大きく揺らしながらまるでよっぱらいのような歩き方をするその子に、しげるは足をひっかけて転ばせてしまう。それからぼくたちはその子を待ち伏せし、ついには3人がかりで暴行をしてしまう。しげるは必死に抵抗するその子に、ふくらはぎを噛まれてしまい…。(歯型)

障がいをもつ子どもたちを取り巻く”社会”を鋭く描く6つの短編集。

レビュー(読書感想)

この6つの物語には、 障がいをもつ子どもたちと彼らをそばで支える人たちがぶつかる苦しさや憤りがストレートに描かれている。 丘修三さんは、児童文学作家になる前は養護学校の教諭として障害児教育に携わっていた。ここに描かれているのは、作者自身が障害児教育に携わる中でぶつかってきた社会なのだろう。

わたしたちは、幼いころから人はみな等しく人権を持っていると教育を受けているはずだし、「みんなちがって、みんないい」(金子みすゞ)はずなのだが、現実社会はなかなかこうした理想に追い付いていない。
マイノリティという言葉が注目され、自分とは違う存在を認め合おうという動きが現れてはいるが、まだまだ生きづらいと感じている人は少なくない。

わたしたちはごく自然に、相手が自分にとって対等かどうか、弱者か強者か嗅ぎ分ける嗅覚を持つ。 身についているということは、この社会ではそうした能力が必要とされていることの証拠だ。時に、自分と違うものを恐れている人は、それを理由に彼らを遠ざけ、攻撃を加え排除しようとする(そうした人たちは自分を”社会”だと勘違いしているようなところがある)。そもそもみんな違うのだから、「あなたは違う」などとだれかに言えるような人はどこにもいないはずなのだ。

マイノリティが過ごしやすい環境を作るために大切なことはなにか。 東京大学准教授で、社会学・障害学を専門とする星加良司さんは「それぞれが持っているマジョリティー性に気づくことだ」と語る。
「声の力」プロジェクト:DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞 …

自分の置かれている現在の社会は、マジョリティにとって有利な環境が整えられているに過ぎない。そのことに気づくことができれば、マイノリティとして生きづらさを抱える人の思いに少しでも心を寄せることができるのではないか。

6つの物語では、ふつうの子どもたち(人たち)が、障がいをもつ子どもと向き合う中で、彼らの置かれている環境の厳しさ(あるいは自分の置かれた環境の生ぬるさ)を目の前に突き付けられる。

「歯形」で、ぼくたちは脳性まひ児である少年を先にからかっていたのではないかと問いただされるが、相手がうまく事実を伝えられないことを知っていて、嘘をつきとおす。脳性まひの少年の文字盤を投げつけるほどの怒り、自分自身の全身を叩きながら泣きじゃくる悔しさ、言葉で伝えきれない思いを込めた涙目とぼくの目が合った瞬間、読み手にも電流が走るような衝撃が走る。

「こおろぎ」では、近所でボヤ騒ぎが起こり、知的障がい児の智(とも)くんが原因とされる。やがて、本当の犯人は別の人物だったことがわかるが、智くん一家は引っ越してしまうのだった。智くんはやっていないと信じる母親には「非常識」だと責める声が立つ。後から罪を告白する方は、少々バツの悪い思いをするだろうが、罪を認めて許されればまた何もなかったようにいつもの生活に戻ることができる。

何もしていないのに守られない人と、ルールを犯しても守られる人の違いはなんだろうか。

「あざ」に登場する公子はごくふつうの女の子だが、知的障がい児の久枝(ひさえ)と仲良く遊ぶ一方で、見えないところで久枝の体をつねる。ひざを折り、どてどてと大股にあるく久枝は障がいをもつ子だということはすぐわかる。できないことも多いが、久枝の母は久枝が大好きだ。「あそんであげる」と言って久枝の家にやってくる公子は、健康なふつうの女の子と言えるのだろうか。やがて公子の久枝への接し方に変化が現れ、小さな希望とともに物語は終わる。

公子を変えたものはなにか。生きやすい社会につながるヒントが、ここにもあるように私は思う。
公子は、久枝が自分にはない才能を持っていることに気づく。弱者としてとらえていた久枝への見方が変わる瞬間だ。他者にかけていたフィルターをはずすと、人はまっすぐにものごとをとらえられるようになる。久枝への視点の変化は、まっすぐに自分を見つめなおすきっかけになっただろう。公子は、絵が好きな自分を取り戻す。

この社会で上手に生きていくためには、他者を見抜き、自分を”安全な “場所に配置する能力も大事だろう。 自分のまわりをもう一度見まわし、まっすぐに自分と向き合ってみて欲しい。 それで本当に自分が守られているのだろうか。

この物語が、読者の子どもたちにも強く問いかけるだろう。

ブックデータ

ぼくのお姉さん (偕成社文庫)
偕成社
¥770(2020/09/05 00:25時点)

受賞歴など

第3回 坪田譲治文学賞受賞 (1987)
中央児童福祉審議会・特別推薦(1987)
新美南吉児童文学賞(1989)
日本児童文学者協会・新人賞(1987)
赤い鳥さし絵賞(1988)

この本もおすすめ

口で歩く (おはなしプレゼント)
小峰書店
¥1,320(2020/09/05 20:44時点)

児童書
*Amazonで賢くポイントを貯めよう*

Amazonで賢くお買い物!
チャージタイプのギフト券なら現金チャージでポイントもたまります。
Amazonで詳しく見る
**フォローする**
この本の担当者
ゆう

ぶっくす雨だれの店主。
好きなこと:本を読むこと、食べること。
苦手なこと:そうじ
学校図書館あちこち。ブックカフェを開くのが夢です。

**フォローする**
BOOKS 雨だれ

この本を読んだみんなの感想

BOOKS雨だれおすすめベスト

10代におすすめのブックサイト【BOOKS雨だれ】が選ぶ、学年別おすすめの本50冊!朝読書や本選びに迷ったらチェック。読みたい本がきっと見つかる。
 

BOOKS雨だれおすすめベスト

10代におすすめのブックサイト【BOOKS雨だれ】が選ぶ、学年別おすすめの本50冊!朝読書や本選びに迷ったらチェック。読みたい本がきっと見つかる。