ドリアン助川『あん』〜でもね…私たち生きようとしたのよ

ドリアン助川「あん」表紙とPOP
  • 中学生・高校生に読んで欲しい小説
  • 思うようにならない人生の中で「生きる意味」を問う感動の物語
  • 映画化された話題の原作

本当に神様がいるなら、つかまえてなぐってやりたいようなことがたくさんあったもの。
でもね、…私たち生きようとしたのよ。(本文より)

本の紹介

どら春は、千太郎がひとりで切り盛りしている小さなどら焼き屋。潰れはしないが、決して賑わうことのない店である。

ある日、店先に貼り出したバイト求人を見て、働きたいという女性がやってくる。

「私、だめかしらね。こういう仕事を、してみたかったのよ」

指の曲がった70歳をすぎた高齢の女性である。

「私、吉井徳江といいます」

千太郎はやんわりと断るが、徳江は諦めない。

「これ、ちょっとこれ食べてみて」

手渡されたのは徳江の作ったあん。50年間あん作りをしているという徳江の作るあんは、香りも甘味も奥が深く、広がりのある味、極上の粒あんだった。気がかりはあるものの、仙太郎は徳江にあん作りを手伝ってもらうことにする。徳江のあんのおかげで店は繁盛する。ところが、だんだんと客足が遠のきはじめ……。

レビュー(感想)

病気と闘いながら、長い間、差別や偏見にさらされてきた人々の不安や、ままならない苦しさや悔しさの道のりを想う。孤独に飲み込まれずに、生きぬいてきたたくましさを想う。

きっと誰もが、自分には生きる意味があるのだろうかと考える時があるかと思います。その答えですが……生きる意味はあるのだと、私には今、はっきりわかります。

(本文より)

徳江のいうように、だからと言って目の前の問題が解決するわけではなく、生きることは苦しみの連続であるのかもしれない。本当の孤独の中で、生きる意味を自ら問いかける時、答えを見つけられなければ、生きる意志を奪われる。それを知っているからこそ、徳江は「あなたももちろん、生きる意味のある人です」と寄り添い語りかける。

社会から断絶された環境にあって、徳江には、世間に出て働きたいという夢があった。生きる意味はいつでも自分の中にあるが、誰かの役に立ったり認められたりすることで、生きる意味が証明されるようなことはやはりあるのかもしれない。

徳江にとって、あんを作ることは生きる意味で、徳江のあんは、社会の差別や偏見に疲れた人たちの心を癒してきた特別な粒あん。徳江の粒あんがつながれていくことで、徳江の生きる意味がつながれていき、生きた証となる。

どんな苦しい人生でも、最後に笑えたら、それはよい人生だったと思えるんじゃないか、私はそんな風に生きたいと思っている。本を読むことは、だれかの生きた証をたどることだ。ただ本を読みそれを誰かに紹介するようなことをしている私のこうした日々も、私にとっての大事な生きる意味だし、誰かの生きた証となっているのかもしれない、なんてことを思う。

おすすめポイント

中学生・高校生にもじっくりと読んで欲しい作品。いま綴られるべき作品、次の世紀に残すべき名作です。

受賞歴など

・2017年フランスの文学賞「Le Prix des Lecteurs du Livre du Poche(読者が選ぶ文庫本大賞)」を受賞。

文庫本を対象とした文学賞で、ノミネートされた7作品から読書家130人による投票で選ばれる。日本の「本屋大賞」のような文学賞かな。

・第25回読書感想画中央コンクールで指定図書(中学校・高等学校の部)

作家・ドリアン助川

ドリアン助川さんは、作家であり、詩人であり、ロッカーであり、多彩な方である。早稲田大学第一文学部東洋哲学科卒。日本菓子専門学校通信教育課程も卒業されており、どら焼きやあんを作る工程や味の描写の細やかさなど自身の経験が深みを与えているに違いない。そもそも粒あん好きな私だが、この本を読んでいる間は、あんこスイッチが常にオンモード、あんドーナツをいくつ食べたことか。こうして文章を書いている間にも、今日もあんを買ってこようと思ってしまう。改めて、どら焼きは日本のソウルフードであることを再確認。ドリアンさんの話よりも、粒あんの話が多くなってすいません。

どら焼きをあまり食べない人も、ぜひこの本を読む前にどら焼きをひとつ食してから読み始めると、あんをより深く味わえます。

映画化

第68回カンヌ国際映画祭・「ある視点」部門に出品、第40回トロント国際映画祭(英語版)にて北米プレミア上映のほか、国内の映画賞も多数受賞した話題作。

2015年公開。日本・フランス・ドイツの合作映画。

映画鑑賞後に小説を読んだのもあるが、どの配役も映画キャストのイメージがしっくり。特に樹木希林さんに関しては、ドリアン助川さんが小説を書く際に、樹木希林さんをビジュアルモデルとされたとのことで、納得。映画では、樹木希林さんと孫娘・内田伽羅さんの共演も話題に。樹木希林さんの最後の主演作品となった。

キーワード

和菓子、ハンセン病、差別、人生、感動、映画原作

本をチェックする

(と1-2)あん (ポプラ文庫)
ポプラ社
ドリアン助川 (著)

出版社 ‏ : ‎ ポプラ社
発売日 ‏ : ‎ 2015/4/3
ペーパーバック ‏ : ‎ 259ページ
装画:木内達郎
デザイン:緒方修一

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水辺のブッダ
小学館
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