コルソン・ホワイトヘッド『ニッケル・ボーイズ』~立ち上がるよと彼は言い 世界は沈黙した

コルソン・ホワイトヘッド「ニッケルボーイズ」表紙

海外で評価の高いベストセラー作品より、10代にも読んで欲しいおすすめ本を紹介します。

『ニッケル・ボーイズ』は、アメリカに実在した少年院をモデルに描かれた小説。

フロリダ州にある少年院アーサー・G・ドジアー男子校は1900年に創設され、2011年に閉鎖している。社会復帰のための職業訓練と教育プログラムを売りにしていたこの学校の敷地から、多数の遺骨が発見された。元生徒たちから、当時の虐待を訴える告発の声がすでに多くあがっていた。墓地とは別の場所に埋葬されていた名もなき少年たちの存在は、長い間、この閉鎖的な施設で隠されてきた悲劇をあらわにした。

著者のコルソン・ホワイトヘッドは、この学校について、元生徒たちによるウェブサイトや残された記録を丹念に調べた。

このような場所は実在したのだとすれば、似た場所はほかにも無数にあったはずだ。その経験が十分に語られていないのだとすれば、誰かが語らねばならない。(NPRインタビューより:訳者あとがき)

この思いは、物語の中の主人公エルウッドの言葉にも表れている。

黒人生徒たちのために、誰が声をあげるだろう?そろそろ誰かがしてもいいはずだ。~(中略)~戻らねばならないと思った。どんな目に遭おうとも、エルウッドの物語を語るために。(本文より)

長い間、語られずにきた物語がここにある。

本の紹介

1960年代、アメリカ南部のフロリダ。エルウッドは、祖母と暮らすまじめで正義感の強い高校生。まだ人種差別が色濃く残る時代、エルウッドの通う高校も、白人と黒人の校舎は分けられていた。そんな中、成績の優秀な生徒であるエルウッドは、大学進学の夢を掴もうとしていた。そんな矢先、無実の罪により少年院ニッケル校へ送られてしまう。

そこは、差別、暴力、虐待が蔓延していた。

私たちは魂のなかで、自分はひとかどの人物であり、重要なのであり、価値があるのだと信じなければなりません。その尊厳をもって、ひとかどの人物なのだという感覚をもって、人生という通りを歩かねばならないのです。

絶望的な環境のなか、マーチンルーサー・キング・ジュニアの言葉を胸に、自由と正義への想いを真っすぐに貫こうとするエルウッドだったが…。

正しさとはなにか。真実の歴史から学ぶことは大きい。はっと心つかまれるラストシーンをぜひ読んで欲しい。

受賞歴など

ニューヨーク・タイムズ・ベストセラー
ピュリッツァー賞受賞(2019年)。前作『地下鉄道』に続き二作連続の受賞。
オーウェル賞(2020年)
アレックス賞(2000何)

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ニッケル・ボーイズ
早川書房
コルソン ホワイトヘッド (著), 藤井 光 (翻訳)

出版社 ‏ : ‎ 早川書房
発売日 ‏ : ‎ 2020/11/19
ハードカバー ‏ : ‎ 269ページ

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