天童荒太『包帯クラブ』~名前がつけられたんだよ<傷>だって

天童荒太『包帯クラブ』表紙

これまで傷ついたことがないという人に、私は出会ったことがない。つきなみだが、人は傷つかずには生きられない。誰もみなそれなりに傷を負って生きている。だからといって傷つくことが怖くないわけではない。誰だって傷つくのは嫌だ。傷つくのを恐れることは悪いことじゃない。でも、傷つくのが怖くて思うように行動ができないのだとしたら、勿体ないとは思う。傷つきやすい自分を変えたい、傷つくことを恐れずにいたいという人は傷の癒し方を覚えるといい。きっと、天童荒太さんの『包帯クラブ』がヒントになるんじゃないかな。

本の紹介

このクラブのはじまりはワラ。でもワラに言わせるとはじまりはディノ。
病院の屋上でふたりが出会った時、ワラは手首に包帯を巻いていた。晩ご飯を作っている時に、包丁を落としたのだ。その包帯が風に舞い上がった。ディノは「傷ついて、血が流れている」といって新しい包帯をベンチと金網のフェンスに巻き付けた。

その後、失恋を理由に自殺しようという親友タンシオのために、ワラは包帯を巻くことを思いつく。
「シオが傷ついた場所にはさ、きっといまも血が流れているんだよ」ふたりは、傷の残る場所へ包帯を巻く。
「ほら、シオが傷ついた場所に包帯を巻いたよ。血が止まったと思わない?」
「傷を手当されて、心がすっかるくなる感じ」とシオはいう。ワラもまた、言えずにいた心の傷を明かした。お互いの傷に包帯を巻いたことで、ふたりは、その行動がとても大きな意味を持つことに気付く。

気づかないふりをしていたけど、わたしは傷をうけていた。大したことじゃないと思い込もうとしていたけど、奥深いところに刺さったトゲのように痛みを発していた。でも、いまはその傷を認めてもらえた。あなたの傷なんだと言ってもらえた。そして、包帯が巻かれている。完全に治ったわけじゃないけど、少なくとも血は止めてもらえた。

ふたりは、傷を抱えている他のだれかの痛みも共有し、包帯を巻く活動を広げていく。

いろんなことで傷ついている人がいる。その傷を受けた場所へ行き、包帯を巻く。どれだけの慰めになるかは分からない。心の傷を言葉にして伝えること、共有し傷だと認めてもらうこと、それが傷を癒す第一歩になる。これはやってみなくちゃわからないことだけど、それだけで、少し心が軽くなるはず。包帯クラブは、インターネットやメールでのお悩み相談も受け付けてるけど、悩みを相談するときは、自分が信頼できる人をしっかり選んでね。(そこが現実世界では難しいのかもしれないけれど)
でも、そんなに活動を広げたら、町中が包帯だらけになっちゃうんじゃないの。さて、物語の行方は本を読んでみてね。

心に残るフレーズ

名前がつけられたんだよ、シオ。気持ちが沈むようなこと、納得いかないこと、やりきれないってもやもやしたこと。あの気持ちに包帯を巻くことで名前がつけられたんだよ<傷>だって。傷を受けたら、痛いしさ、だれでもへこむの、当たり前だよ。でも、傷だからさ、手当をしたら、いつか治っていくんじゃない。

映画化

監督 ‏ : ‎ 堤幸彦
出演 ‏ : ‎ 柳楽優弥・石原さとみ・田中圭・貫地谷しほり・関めぐみ・佐藤千亜妃

本をチェックする

包帯クラブ (ちくま文庫)
筑摩書房
天童 荒太 (著)

2006年に発表され、映画化もされた人気作品が2013年に大幅に加筆修正し、文庫本が再発刊。挿画は『海獣の子供』の五十嵐大介さん。さらに2022年には続編も刊行されます。

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