フランス・高校生が選ぶゴンクール賞受賞~フィリップ・グランベール『ある秘密』

ある秘密
  • 戦争や平和について考えさせられる本
  • ホロコーストをテーマにしたフランスの小説
  • 高校生が選ぶフランス・ゴンクール賞受賞作

15歳、ぼくは家族の歴史の秘密を知る

両親はパリのブール=ラベ通りで、スポーツ用品の卸売り商を営んでいた。高飛び込みの選手だった母、レスリングと器械体操の選手だった父。体が弱く病人のように青白い顔をしていたひとりっこの僕とは似つかない、美しすぎるほどの健康な体を持つ両親。

幼いころから家族の中になにか秘密があるような気がしていた。

ある日、屋根裏部屋で古いトランクの中に見つけたほこりっぽいぬいぐるみ。体に残されている洗礼の傷痕、つづりの曖昧な名字。病弱なぼくは空想の兄を作り出し、両親の物語を自分で勝手に思い描いていた。

15歳の誕生日を迎えたぼくは、突然に、家族にまつわる秘密を知ることになる。

15歳の誕生日の翌日にぼくが教わったこと。それは実はずっと前から知っていたことだった。ぼくだって、わが友ルイーズと同じように胸に記章を縫いつけ、わが親愛なる彫像とでもいうべき、両親とともに両親と同様、迫害を避けて逃亡したかもしれなかった。

大人たちが怖れ、隠し背負ってきた罪深い烙印の正体。そして、両親が何もかも放り出して南フランスに避難したのは、物資の欠乏や徴発のせいではないこと。そして、両親の秘密と、本物の兄の存在。それは、自分が想像していた両親のストーリーとはかけ離れたものだった。

闇に葬られた家族の真実の物語を掘り起こしたぼくは、うしろめたさという重荷を背負う。ぼくもまた、終わったはずの戦争に翻弄されたひとりなのだ。

十五歳の年、新たな展開によって物語の流れは変わってしまった。このやせた体、だぶだぶのパジャマを着せられた人々にも似た体に張りつけられた形容詞を、いったいどうしたらいい?(中略)この新たな素性によってぼくは変身をとげた。同一人物のまま別人になり、奇妙なことに前よりも強くなった。(本文より)

高校生が選ぶフランス・ゴンクール賞受賞作

フランスで100年以上の歴史をもつ権威ある文学賞であるゴンクール賞。1988年より高校生を審査員とした「高校生が選ぶゴンクール賞」が始まりました。本家ゴンクール賞を先読みすような、鋭い選書には定評があります。この小説は、2004年の「高校生の選ぶゴンクール賞」に選ばれました。

著者の自伝ともいえる作品ですが、多くの高校生たちに支持されるほどに、彼らが戦争が落としていった影の部分や家族の歴史について強い興味を持ち向き合っていると言えるのではないでしょうか。

フランスの高校生たちの感性も意識しながら、日本の高校生たちにも手に取ってみて欲しいです。

著者・フィリップ・グランベール

1948年、パリ生まれ。現在は、パリで精神分析クリニックを開業するかたわら、精神分析に関するエッセイを出版。

2001年『ポールの小さなドレス』で小説家デビュー。2冊目であるこの本が2004年に刊行されると、フランスでベストセラーとなった。

この小説は、著者自身の体験による自伝的小説ともいえる。幼いころから、家族や周囲の人たちが何かを隠していることを感じていたという著者。小説の主人公と同じように、15歳の時に自分が生まれる前の家族の秘密を知ります。
著者自身の自伝ともいえる小説です。

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単行本: 158ページ
出版社: 新潮社
ISBN-13: 978-4105900519
発売日: 2005/11/1

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