ロビン・スローン『ペナンブラ氏の24時間書店』

ミスター・ペナンブラの24時間書店では奇妙なことが行われている~『ペナンブラ氏の24時間書店』表紙

なぜ本を読むのか、と問う人がいる。言われてみれば、なぜ私はこんなにも本を読むことをやめられないのだろう。しかし、考えがまとまらないうちに、またページをめくりはじめる。なぜ本を読むのか、その答えはすべての本の中にある。

本の紹介

ロビン・スーロン『ペナンブラ氏の24時間書店』は、小さな老舗書店の店主・ペナンブラとそこにやってくる奇妙なお客たちが巻き起こす小さな事件、意外な結末に心あたたまる物語、ではない!死んだはずの大切な人に会える、不思議な書店の物語、でもない。(この本を読む前に、そんなストーリーを妄想したのは私だけではないはず)

クレイは元ウェブデザイナーで現在は失業中。店先の求人ビラを見つけて、ペナンブラ氏の24時間書店へ足を踏み入れた。今どき、24時間開けている店は珍しくない。しかし、ペナンブラ氏の書店は24時間営業しているわりに、お客はほとんど来ない。

書棚と書棚のあいだは狭く、まるで森の入り口。
ありえないほど細長くて、くらくらするほど天井が高く、書棚はずっと上まで続いている。見上げても果てがないみたいに暗い。
書棚には梯子が何本もかかっていて、横にスライドするようになっている。クレイはこの景色を不気味と表現したが、最高にクールだと思ったあなたは、きっとこの本との相性がぴったりだと思う。いますぐに書店へ行き、この本を購入するべき。絶対に損はしない。(たぶんあなたはかなりクレイジーな本好きか書棚マニアのはず)

ペナンブラ氏の24時間書店には手前に古本屋、奥には別の書店がある。クレイはここを”奥地書店(ウェイバックリフト)”と呼んでいる。本棚に並んでいるのは、グーグル検索ではヒットしない、つまり、存在しない本ということになる。

クレイはここで夜勤として、顧客たちに求める本を手渡し、その様子を詳細に記録するのが仕事。全く売れていない(それなのに潰れない)この書店の本棚に並ぶ本の正体は一体なんなのか。

「〈ミスター・ペナンブラの二十四時間書店〉では奇妙なことが行われている。」

クレイは奥地書店の秘密を探るために、友人たちとある本の読解に挑戦する。
ガールフレンドでグーグラー(Google社員)のキャット・ポテンテ、
ルームメイトで特殊効果アーティストのマット
親友でソフトウェア会社CEOのニール・シャー
そして、元ウェブデザイナーで元失業中で現在ペナンブラ氏の24時間書店の夜勤担当・クレイ

彼らはひとつの謎を解き明かすことに成功する!実はペナンブラの書店にやってくる顧客たちもまた、とある謎解きに挑戦しているのだと知る。

われわれはここのメンバーと今後メンバーになるかもしれない顧客をひとり残らず記録している。彼らの研究をさかのぼれるように」言葉を切ってからつけ加えた。「何人かはとても一生懸命、研究をしている」
「具体的には何をしているんですか?」
「決まってるじゃないか!」ペナンブラは眉をつりあげた。「本を読んでいるんだよ」

そう、すべての本には謎を解き明かす鍵が隠されている。私たちは読書を通して、著者が本の中に隠した真理を追う研究者なのだ。だから断言する、真理が隠されていない本は読む価値がない。読まない者には分からないかもしれないが、私たちは私たちにしかわからないある種の匂いを嗅ぎ取り、その秘密に群がっているのだ。

謎解きも真理もあまり興味がない、という人もいるだろう。無理に本を読むことはない。なにも真理が隠されているのは本だけではない、音楽やアートや自然の中にも、真理はあらゆるところに隠されている。自分にあったやり方で探せばよい。

それに、他のあらゆる分野にも言えることだが、真理を見つけるにはそれなりの修行が必要だ。この読書クラブが見習い・未製本会員・製本会員と序列にそって読める本が決められているように、更なる真理を追究したければ、読む力を鍛える必要がある。一方で、クレイたちのように、従来の読書とは異なる方法で謎を解き明かすことも可能だけど。キャット・ポテンテのいう「データの可視化」ってやつ。ペナンブラの言葉を借りるなら「本と読者の関係はプライベートなもの」だから、本の楽しみ方は人それぞれ。自分の好きなやり方で本を楽しんでみて。

受賞歴など

2013年全米図書館協会アレックス賞受賞

本をチェックする

ペナンブラ氏の24時間書店
東京創元社
ロビン・スローン (著), 島村 浩子 (翻訳)

出版社 ‏ : ‎ 東京創元社
発売日 ‏ : ‎ 2014/4/20
ハードカバー ‏ : ‎ 343ページ

この本もおすすめ

チャリング・クロス街84番地-増補版 (中公文庫, ハ6-2)
中央公論新社
ヘレーン・ハンフ (著, 編集), 江藤 淳 (翻訳)