- 直木賞作家・石田衣良が描くミステリー
- 中学生の少年犯罪を描く家族の心に添う物語
人間は理解できないものに対して恐怖を抱く。
だからこそ、理解できない残忍さほど怖いものはない。
残忍な事件が起こると私たちは、それを理解できる事件と理解できない事件とに分類する。
とくに、少年犯罪と呼ばれる未成年の起こす事件については慎重な判断が求められる。
少年を事件に駆り立てたものがなんであるか。
その正体を見つけることが、心の平安につながると思っている。
原因があって理解ができれば、安心するのだ。
しかし、そこに本当に理由などあるのだろうか。
なにかがあれば、事件を防ぐことができたのだろうか。
あらすじ
ガラスとコンクリートでできた大砲の卵のような形の五階建て。ガラス屋根の渡り廊下とつながった五つの学舎がその母校舎を星型に取りまくように建つ。建設大臣だか誰かの優秀建設賞を取った。
ジャガは夢見野ニュータウンにある中学校に通う中学3年生。趣味は植物観察。
両親と弟のカズシ、妹のミズハと暮らす。妹のミズハはモデルの仕事もこなす小学3年生。
中学一年生のカズシもかつてはモデルをしていたが、いまは学校にも行かずに部屋にひきこもり、毎日SFやホラー映画を観て過ごしている。
ある日、夢見野ニュータウンで9歳の女の子・向井香流(むかいかおる)が行方不明になった。
まもなく、奥ノ山で子どもの遺体が発見される。あたり一面にガラス片が飛び散る不気味さのある山奥。
死因は窒息死。
麻ロープで壁面にもたれかかるように吊るされた遺体。壁面に銀のスプレーで書き置かれた文字。 夜の王子
PRINCE OF THE NIGHT
これが最後ではない
夜の王子~PRINCE OF THE NIGHT
それはジャガたちが小学生のころ、
学校のガラスが割られ、うさぎが皆殺しにされた現場には銀のスプレーでこの文字が残された。
学校の怪談やトイレの花子さんが流行ったころに、あらわれた。夜の王子は、子どもたちにとってとこか悪のヒーローのような存在としてあった。
やがて、犯人として弟のカズシが逮捕された。
マスコミが押し寄せる。
カズシの文集を売ろうとする奴がいる。
少年Aの自宅をひと目見ようとやってくる人がいる。
写真週刊誌はカズシの写真と実名を公開し、まるでお祭りのように、誰もが都合のいいように事件の原因を暴きたがる。
教育熱心なステージママ、
カズシの部屋から押収されるいくつものホラービデオ、
給食で使っているプラスチックの食器から溶け出した環境ホルモンのせいだという人もいる。
あるいは先祖の呪いだ、なんていうわけのわからない電話までかかってくる。
ジャガにはわからなかった。
弟のカズシが本当に夜の王子なのだろうか?
なぜカズシはそんなことをしたのだろうか?
それが最悪のおこないでも、誰かがわかってやる必要があるのではないか。
そうでなければ、犯罪を犯した人は一生ひとりぼっちになってしまう。最低の人間だって、誰かがそばに寄り添ってあげてもいいはずだ。それがぼくの弟ならなおさらじゃないか。冷たいご飯を噛みながら、そう思った。
追い込まれたにしろ、自分から突きすすんだにしろ、カズシを事件に向かわせたものがなんなのか。
ジャガは、弟のために、弟の心を理解しようと事件の真相を調べはじめる。
おすすめポイント
中学生による少年犯罪を描くミステリー
新興住宅地で起こった猟奇的な殺人事件。やがて犯人が自分の弟だと知った時、14歳の少年は弟のためにその心に寄り添おうとします。
残忍な事件を扱っていますが、14歳の少年の弟や家族を思う純粋さがまっすぐな文章で描かれています。複雑な人間関係を求められる現代社会の中で、私たちは他者とどう向き合うべきか、そして家族とはなにか、考えさせられます。
著者プロフィール
石田衣良
1960年、東京都生まれ。広告制作会社を経て、フリーランスのコピーライターに。
1997年「池袋ウエストゲートパーク」でオール読物推理小説新人賞を受賞し、デビュー。『うつくしい子ども』『約束』『ブルータワー』など社会的事件を題材にした作品も。
【受賞歴】 『4TEEN』直木賞 『北斗ある殺人者の回心』第8回中央公論文芸賞受賞
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文庫: 285ページ
出版社: 文藝春秋
ISBN-13: 978-4167174057
発売日: 2001/12/7