- 胸にせまるぐっとくる小説です
- 『きみはいい子』とあわせてどうぞ
- 第27回山本周五郎賞候補作
弥生と名乗ると、いつも三月生まれかと聞かれる。
彼女は三月生まれじゃない。三月に捨てられたのだった。
本の紹介とレビュー
弥生は父のことも母のことも知らない。幼いころに親に捨てられて、施設で暮らしてきたから。
いま弥生は、准看護師として病院に勤務している。弥生にとって、准看護婦として働いている病院も一間の小さなアパートも、やっと手に入れた自分の場所だ。
嫌な医者にもあたりさわりのない笑顔で応じ、正看護師よりも有能にみられるように気を利かせて働く。
いい子でいなければ、受け入れてもらえない。
いい子でさえいれば、居場所を追われることもない。
もう二度とだれにも捨てられたくない。
嫌われないように、余計なことをしないように。
そうして、彼女は自分の居場所を守ってきた。
弥生の勤める病院に新しい看護師長が来てくる。看護師長との出会いが、彼女に変化をもたらす。
看護師を見下している医者。
娘に罵りの言葉をぶつけ続ける老いた母親。
病院で人が死ぬということ。
雨の日に聞こえた、どなり声と子どもの声。
おかしいと感じながら、そう感じないことに慣れっこになっていたことに、向き合い始める。
どんなに望んでも、手に入れられないものが、わたしにはたくさんあった。
自分のほんとの名前。ほんとの誕生日。
もしかしたら、いるかもしれない、おにいちゃんとおねえちゃん、妹と弟、おじいちゃんとおばあちゃん。
だれもみつけてはくれなかった。
自分でもみつけられなかった。(本文より)
どんなに望んでも手に入らないものは、手に入れるべきではないものなのかもしれない。みんなが自分にはないものを持っているように見えるけれど、それはただの見せかけだ。
だれもがみんな「持たないもの」を持っている。
だれもがみんな、その人だけのものをちゃんと持っているのだから。
菊地さんが話してくれた元同級生の渡邊さんのはなし。
養女だった渡邊さんは、東京で実の父親を探すが、それは決して幸せな結末にはならなかった。印象深く残った。
この物語の舞台は、中脇初枝さんの連作短編『きみはいい子』の舞台となった同じ町。
続編ではないけれど、『きみはいい子』を読んでからこちらを読むといいかもしれません。何度読んでも泣いてしまう。
おすすめポイント(受賞歴など)
受賞歴
第27回山本周五郎賞候補作
ドラマ「わたしをみつけて」原作
出演:瀧本美織、鈴木保奈美
全4話と短いドラマ放送でしたが、評判は良かったようです。ドラマ見逃しましたが、見たかったな。
原作がとてもよいので、ドラマがよかった方はぜひ本も読んでみてください。