- 中学生から読める純文学
- 東北・岩手を舞台に震災をテーマにした文学作品
- 第157回芥川賞受賞作
岩手の地で失われたものを偲ぶ
転勤で移り住むことになった東北の地・岩手。
水楢の倒木、下草から這い出すヤマカガシ、豊富な樹木に覆われ瑞々しく流れあふれる山川に、ブドウ虫の繭を垂らせば形のよい山魚が引っかかる。
知る人もいない私に、釣りを通じこの土地を教えてくれたのは同僚の日詰だった。
釣り上げた鮎から雌ばかりを選んで竹串に刺して炉で炙る。最後に会った時、酌み交わすことのなかった田酒の味を懐かしむことは永遠にない。
職場を離れ疎遠となった日詰が、震災後に消息を絶っていると知ったのは、六月のことだった…。
釣りを通じた和やかなひとときとはうらはらに、徐々に不穏な空気がつきまとっていく日詰という男。物語が進むにつれて少しづつ見えてくる元・同僚の姿は、主人公が知っている男とは少し違っていたかもしれない。しかし、自分の中にある記憶だけが確かなものであるともいえる。
失われたはずの人を偲ぶことで、私たちはいつでも彼らを身近に呼び寄せ、たしかに彼らがそこにいたことを感じることができる。
タイトル影裏(えいり)の意味は
影裏【えいり】というタイトルはどういう意味だろうか。
広辞苑をめくってみたが「影裏」という単語は載っていなかった。試しにみなさんもキーボードで「えいり」と打ってみて欲しい。「影裏」という単語は出てこないのではないだろうか。「陰裏」(かげうら)で日の当たらない場所、という意味はある。
「影裏」は著者が造り出した言葉なのだろうか。調べてみると、「影裏」という言葉は禅の用語であるらしい。
人の一生は短く儚いものだが、悟りを得た者の魂は滅びることなく、永久に存在するということのたとえだそうです。
著者・沼田真佑
1978年、北海道生まれ。現在は、岩手県盛岡市に在住。
本作で第122回文學界新人賞を受賞しデビュー。このデビュー作で第157回芥川賞を受賞しました。今後の作品が楽しみですね。
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✔受賞歴など
第157回芥川賞受賞作
第122回文學界新人賞受賞
✔国語入試問題出典
2018(平成30)年 東大寺学園高等学校国語入試問題に出典
関連サイト(外部リンク)
芥川賞受賞・沼田真佑インタビュー(前編)「浮かない顔の理由」 | 文春オンライン