- 小学校高学年から中学生に
- ふたりの女の子のファンタジーミステリー
本の紹介
老女・津田節子は里子を探していた。
里子を選ぶ際の条件は、十四年前の四月に生まれて、血縁者が一人もいないこと。
そして、月に関する出生のてがかりをもっていること。
最初の数ページで、謎めいた展開に心をつかまれてしまう。
こうして里子候補に選ばれたのは、養護施設で育った美月(みづき)と、育ての親を亡くしたばかりの月明(あかり)。ふたりの少女は、夏休みの間、津田さんの別荘で過ごすことになった。そこは、十四年前にダムの底に沈んだ村を見下ろす湖があった。
ふたりはなぜこの別荘に呼ばれたのか。里子を選ぶ時のあの奇妙な条件はなんなのか。
そして、美月と月明にも人には話せないひみつがあった。
「秘密って、ツルイバラの花のにおいがするのよ。」(P70)
このみづきの台詞もまた、彼女の秘密に通じるヒントになる。
ラストシーン…それまで、感情が読みとれず冷淡にさえ見えていた津田さんの選んだ物語には、思いがけず涙。これでよかったのだと思う。
表紙の持つ雰囲気そのままに、幻想的なファンタジーミステリー。
「それって、あの本のシリーズでしょ」
私が読みかけの本の表紙をのぞいて息子(小6)が言う。
あの本のシリーズ・・・。あぁ、あれか。ちがうけど、わかる。息子が思い浮かべているのはたぶん、私がこないだまで読んでいた「クロニクル千古の闇」シリーズだろう。
それほどに、酒井駒子さんの描く少女の印象が強いのだと思う。酒井さんの絵はいつも、幻想的ではかなく、凛とした美しさで語りかけてくる。そんなわたしも、この本を購入したのは酒井駒子さんの表紙に惹かれてという、ただそれだけの理由。
富安さんといえば「ドングリ山のやまんばあさん」でおなじみ。小学生向けの童話作家というイメージが強いですが、この作品は子どもから大人まで楽しめるファンタジーミステリアス。いい意味で期待を裏切られました。