東野圭吾『カッコウの卵は誰のもの』~才能なのか遺伝子なのか

東野圭吾『カッコウの卵は誰のもの』
  • 遺伝子と才能をめぐるスポーツミステリー小説
  • 北海道を舞台に繰り広げられる冬におすすめの本

本の紹介

緋田風美(かざみ)は、注目の若手スキープレイヤー。 父の緋田全宏昌も、オリンピック出場経験のあるアルペンスキーのトップ選手だった。

ある日、スポーツ科学の研究者である柚木が緋田宏昌のもとを訪れる。
柚木の研究によると、風美は、トップアスリートに特化したFパターンと呼ばれる組み合わせの優れた運動遺伝子を持ち合わせているのだという。
柚木はオリンピック選手でもある父・緋田宏昌の遺伝子も研究したいと協力を依頼するのだが、緋田は強く協力を拒んだ。

緋田には、風美の出生に関して誰にも話せずにいた秘密があった。

「もしかしたら風美は、自分の娘ではないのではないか」

風美が生まれて間もなく、妻が亡くなった。
ベランダからの転倒、事故とも自殺とも考えられた。
妻が自ら命を絶つ心あたりはなかった。

数年後のある日、引き出しの中から「新生児行方不明」の古い新聞記事を見つけた時、その疑問は緋田の心に強く焼き付いた。
スキーの大会で長期海外遠征中に出産した妻には、秘密があったのではないか。
もしも風美が真実を知ってしまったら…

風美の出生の秘密を探られまいとする緋田だが、 そんな折、北海道の合宿に参加する風美に向けたある脅迫状が届く…

東野圭吾が描く雪の北海道を舞台に繰り広げられるウインタースポーツミステリー。

本の感想

スポーツや音楽、将棋や芸術、もちろん文芸の世界も、一流と呼ばれる人はみななんらかの「才能」を持った人たちだ、と思う。

もちろん才能だけでは無理だ。その道のトップに立つためには、才能とそれ以上の努力が必要だ。

「才能」とは天性のもの。

欲しくて手に入れられる類のものではない。

あるいは、「欲しい」思いとは別に「与えられてしまう」ものであるとも考えられる。

ところで、みなさんは「カッコウ」という鳥を知っているだろうか?

カッコウは托卵といって、他の鳥の巣に自分の卵を産み落とし、その鳥に自分の卵を育てさせるという習性がある。

この小説は、「Fパターン遺伝子=才能」をカッコウの卵に見立て、才能とはいったい何か?という、だれもが一度はぶち当たったことがあるだろう葛藤がテーマのひとつになっている。

選手としての天性の才能ともいえるFパターン遺伝子をもつ風美。

元サッカー選手の父をもつ鳥越伸吾は、Fパターン遺伝子を持つという理由だけで、経験もないアルペンスキーを始めることになる。スキー選手であれば誰もがのどから手が出るほど欲しいその才能は、伸吾自身にとっては興味のないものでしかない。音楽が好きな伸吾は、どうせなら音楽の才能があったらいいのに、と思う。むしろ、そんな才能もなくたっていいと言い切る伸吾。

才能とはなんだろうか。

才能とは何だろうと風美は思った。
それがあるために苦しむというようなことはこれまで考えたこともなかった。

だが振り返ってみれば、逆のことならばいくらでも知っているのだ。どんなにスキーを愛していても、才能がなければ勝てない。

才能が、一流のアスリートを作る第一条件なのだとしたら・・・それなら、あなたは一流を目指すことを諦めますか?

あるいは、あなたがなにか才能を持っているとして、それが自分の欲しいものではないとしたら…

読みながら何度も、悶々とします(・´з`・)

ウィンタースポーツの好きな人はもちろん、スポーツをしている人ならだれもが惹きつけられるテーマ。

ドラマ「カッコウの卵は誰のもの」

2016年WOWOW連続ドラマWにて全6回放送。スポーツ万能な土屋太鳳さんにぴったりの役どころ。スキー姿が板についていました。
出演:土屋太鳳・井原剛志・本郷奏多

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カッコウの卵は誰のもの (光文社文庫)
光文社
カッコウの卵は誰のもの (光文社文庫) [文庫] 東野 圭吾

文庫: 392ページ
出版社: 光文社 (2013/2/13)
ISBN-13: 978-4334765293
発売日: 2013/2/13

著者プロフィール

東野圭吾

1958年大阪府生まれ。

大阪府立大学工学部卒業。エンジニアとして勤務しながら執筆した『放課後』が第31回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。ドラマ化された『ガリレオ』シリーズをはじめ、数々のヒット作を生み出している日本を代表するミステリー作家。

【主な受賞歴】

『秘密』第52回日本推理作家協会賞 『容疑者Xの献身』第134回直木賞 『ナミヤ雑貨店の奇跡』第7回中央公論文芸賞 『祈りの幕が下りる時』第48回吉川英治文学賞

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