- 人生を充実させる「なにか」を追い求める人々のまっすぐさを描く
- 森絵都の第135回直木賞受賞の短編集
わたしたちは「なにか」に生かされている。そう感じることがある。
じぶんが「なにか」のために生きている。
「いま」は必然だと、迷わずに思う。
朝、目を覚ますと、となりに恋人や家族がいて微笑んでくれる。
そんなゆるやかで穏やかな時間を投げ捨てても、自分がやらなければならないなにか。
時にそれは美濃焼であり、すべては風に舞うビニールシートなのだ。
だれかにとっては、どうでもよいものかもしれない。大事なのは、自分にとって価値があるかどうか。
それこそが自分に課せられた宿命なのだと迷わずに言い切れる。
迷いのない人生などない。でも地に足をつけ確かに踏みしめるための土台がわたしたちには、必要だ。断固としたゆるぎない価値観。
そんな「なにか」に心当たりのある方も、そんな「なにか」をいまだ探し続けているあなたにもおすすめしたいこの1冊。
本の紹介とレビュー
才能豊かなパティシエの気まぐれに奔走させられたり、犬のボランティアのために水商売のバイトをしたり、難民を保護し支援する国連機関で夫婦の愛のあり方に苦しんだり…。自分だけの価値観を守り、お金よりも大切な何かのために懸命に生きる人々を描いた6編。あたたかくて力強い、第135回直木賞受賞作。
器をさがして
人気パティシエの伊形ヒロミの秘書をしている弥生。クリスマスイブの朝、ヒロミの命で美濃焼の器を求めて新幹線に飛び乗った。恋人の高典からのメールには〈僕かあの女か、どちらか選んでくれ〉
犬の散歩
恵利子は夫とふたりぐらしの専業主婦。犬の里親ボランティアのためにホステスの仕事をはじめた。そこまでしてボランティアをする恵利子にまわりは不思議な顔をするが「犬は、わたしにとっての牛丼なんです」という恵利子の心は・・・?
守護神
ニシナミユキは、知る人ぞ知る第二文学部の代筆の守護神である。フリーターをしながら大学へ通う裕介には、どうしても4年で卒業したい理由がある。ところが、昨年はニシナミユキに代筆を断られたのだ。今年こそ、なんとしてもニシナミユキに引き受けてもらおうと意気込み、裕介はニシナミユキのいる二〇八号室へ向かうのだが・・・。
鐘の音
不空羂索観音像・・・一面三眼八臂の木像、飛天光という光背を背負い、蓮華座に坐している。25年前に仏像修復師の修行中だった本島潔が手がけた最後の仕事だ。かつて大火事で本尊が焼け落ち、よその寺から客仏をもらってきたのだと言うが・・・。
ジェネレーションX
健一は小さな出版社に勤める40代。顧客のクレーム謝罪に一緒に向かうことになったのは、得意先の若手社員・石津。年長者の自分が運転する助手席で、私用電話を繰り返す若造に内心苛立たしさを感じながらも、会話の内容に耳をすまし…。
風に舞うビニールシート
難民を支援する国連機関で働く里佳は、エドと出会い恋をして結婚した。一年の大半を紛争地域ですごすエドとの結婚生活は、東京で待つ里佳にとって想像以上に疲弊するものだった。家族のぬくもりを与えたい里佳の思いとは裏腹に、エドの心をとらえていたのはいつも、「風に舞うビニールシート」だった。難民キャンプで見てきた景色、簡単に吹き飛ばされる人々の命や幸せ、それを救うことこそが、エドにとって唯一の使命だった…。
十分すぎてとても救いきれないほどの命がひしめいていて、さらに増えつづける。空を真っ黒に塗りつぶすほどのビニールシートがつねに舞っているんだ。
本文より

何度読み返しても、ぐっとくる物語です。森絵都さんの短編の中でもお気に入り。
おすすめポイント(受賞歴など)
第135回直木賞受賞作
ドラマ化放送
2009年 NHK土ドラ 全5回放送。【主演】吹石一恵、クリス・ペプラー、吉沢悠ほか
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【もくじ】
器をさがして / 犬の散歩 / 守護神 / 鐘の音 / ジェネレーションX / 風に舞うビニールシート
文庫: 342ページ
出版社: 文藝春秋
発売日: 2009/4/10
著者プロフィール
森絵都(もりえと)
1968年生まれ、東京都出身。
早稲田大学第二文学部文学言語系専修卒業。1990年『リズム』で講談社児童文学新人賞を受賞し、デビュー。『カラフル』をはじめ、数々の児童文学を発表。2006年『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞受賞。
【主な受賞歴】
『リズム』第31回講談社児童文学新人賞
『カラフル』第46回産経児童出版文化賞
『風に舞いあがるビニールシート』第135回直木賞
『みかづき』第12回中央公論文芸賞