村田紗耶香『マウス』

村田沙耶香『マウス』
  • 中学生・高校生にもおすすめ村田沙耶香さんの小説
  • ふたりの女の子の友情物語
  • 村田紗耶香さんが苦手な人にも読んで欲しい

自分のことを内気だという5年生の女の子・律(りつ)と、ちょっと変わった女の子・瀬里奈の友情物語。

律は自分のことを内気だと思っている。クラス替えでは、自分と同じような大人しい友だちを見つけて自分の居場所を守っている。新しいクラスには、声も出さずいつも宙をぼんやりとながめているような浮いてる子がいる、名前は瀬里奈(せりな)。瀬里奈は、ちょっとしたことですぐに泣きだし、いつもどこかへ消えてしまう。クラスのみんなはそんな瀬里奈に腫れものを触るように離れている。ある日、律は泣きだして飛び出した瀬里奈の後を追いかける。これがふたりの友情のはじまり。

律も瀬里奈も、みんなにはなじまない、ちょっと変わった子。瀬里奈に至っては、変わっているを通り越して、自分だけの独特な世界を持っている。瀬里奈は、人ごみ大きな音を怖いと感じて、現実世界に堪えられなくなった時に、自分で作り上げた「灰色の部屋」に閉じこもる。うす暗く音のないその世界を「すごく素敵な場所」と信じている。そりゃそうだよな、自分で作った世界だからなぁ。

律は、そんな瀬里奈をなんだか苛立たしいと感じる。瀬里奈を灰色の世界に行かせないためにどうしたらいいのか。律は瀬里奈の作った灰色の世界に鮮やかな色彩を流し込もうと試みる。

律は図書室から『くるみわり人形』の本を選び、嫌がる瀬里奈に無理やり物語を読み聞かせるのだ。この『くるみわり人形』の物語が、世界と瀬里奈をつなぐ小さな糸となり、彼女の世界を変えていく。

閉じこもった「自分」の扉を開ける鍵は

村田紗耶香の小説に出てくる女の子たちの多くは、世界を自己完結させていると感じる。他者の世界にも入り込まないが、自分の世界にも容易に人を入れようとしない。『マウス』では、瀬里奈のもつ独自の世界を、律が変えていく。律も瀬里奈も自分は「こんな子だから」と自分で作った居心地のいい箱の中に閉じこもっているのだけれど、思いもよらず開けるきっかけをもたらしたのは、自分と同じ女の子。外の世界へとつながる、内側から開けることのできないその扉の鍵を持っていたのは「友だち」だった。友情が心に響く。

2016年に『コンビニ人間』で第155回芥川賞を受賞した村田沙耶香さん。コンビニでアルバイトをしながら本作を書き上げたというユニークなエピソードも。「クレイジー沙耶香」と呼ばれるなど、小説の独特な作風に作品の評価も人によってまちまち。この作品は、どなたにもおすすめできる作品。

私立中学校国語入試問題に出典

【2015年】桜美林中学校

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